騎士の奏でる鎮魂歌

□聖職者の鎮魂歌
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「…さぁ、祈りを捧げなさい。我等が主に、日々の感謝を、汝が清らかな光を授かるために…。」
大司教不在のため、マルディンが唱える主への詞。それに合わせて、集まった者---といっても10人足らずだが---は揃って手を胸の前で組み、瞳を閉じる。
しばらくして、祈りの時間は終わり、大聖堂の清掃が待っていた。

「…マルディン様、何処だろう………。」
ベルガはキョロキョロしながら廊下を歩く。
所々ひび割れた壁を直す業者が見え、マルディンに伝えようと思ったのだが…。
「………っこほ…ごほ………っ!!」
ひょいと曲がった廊下の先で、壁に寄り掛かり苦しげにしているマルディンを見つけ、ベルガは慌てて駆け寄った。
「マルディン様っ!」
「おや……、…ベルガ。今は掃除の…っ…!」
息を詰めたマルディンが片手で顔を覆いずるずると座り込んだ。
「…マルディン様…っ!」
「だ…ぃ、じょうぶ……です………。」
「待ってて下さい!今………?!」
人を呼ぼうと向きを変えたところでぐいと手を引かれる。振り返るとマルディンが掴み、首を振っていた。
「駄目です…、もう、大丈夫ですから………。」
ゆっくり立ち上がったマルディンが、未だ青くなっているベルガに安心させるように微笑んだ。
「………あの…、…そろそろ手を………。」
「ああ、…すみません。」
苦笑したマルディンがそっと手を放し、近くの部屋に入ろうと取っ手を掴む。
「あ、マルディン様…!」
「はい………?」
「その、業者の方がお見えになっているのですが………。」
ベルガの言葉にそういえば、と頷き微笑んだ。
「もう少しお待ち頂いて下さい。すぐに向かいますから…。」
「……マルディン様…。」
心配の色が拭えないベルガにまた後で、と言い部屋に滑り込み扉を閉める。
しばらく廊下に佇んでいたベルガの気配が完全に消え、マルディンは深いため息をついた。
そのまま扉に縋り付き、腰を落とす。
「っ…まだです……、…まだ、時は…っく………!」
呟いた言葉は小さく響き、闇に消えた。
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