騎士の奏でる鎮魂歌

□聖職者の鎮魂歌
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「………私が、大司教に、ですか?」
時は本編より約50年程前まで遡る。
当時、まだ修道士として神に使える身であったマルディン=セラティード=ロフラは目の前に居る白髪の男、教皇カフィン=ノルデに唐突に大司教になれと言われた。
「さよう。君の講演も、人格も大司教には申し分ない。」
「………教皇様、申し訳ありませんが、他の者にしていただけませんか。」
軽く俯いたマルディンを見遣り、カフィンは小さく眉を寄せる。
「………何故だ、マルディン。大司教になりたくないのか?…まぁ、よい。そのうち来るから、それまでに決めておいてくれ。」
そう言ってカフィンが、また今度と去って行くのを見つめ、マルディンはそっと瞳を閉じる。
「………主よ、私は貴方に仕えるべき者ではないのです……………。」


爽やかな風が、庭に咲く様々な花を揺らし、真っ白な蝶と戯れる。ここ、セントラヴァー大聖堂は大司教が不在のため、約30年間放置されていた。
マルディンが来た当初は、近くの小さな教会から掃除や祈りのために数人だけ来ている状態だった。
しかし、次第に人が増え、今では数十人抱える程までになった。
そのうちの多くはマルディン目当てなのだが。
「マルディン様!おはようございます。」
「おはようございます、ベルガ。お早いですね。」
駆け寄って来た修道士見習いのベルガに、これでもかというほどの綺麗な微笑みを向ける。
ほぅ、とため息をついたベルガは花を両手に抱えたマルディンを見送り、顔を赤らめていた。後ろから急に肩を叩かれ、びっくりして振り返ると、同じ修道士見習いのハルカが悪戯な笑みを浮かべていた。
「うふふ、見たわよベルガ。それにしても珍しいわね、マルディン様が教会に朝から居るの。」
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