長編

□許しておくれよ (1)
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都立銀魂高校


父の仕事の都合で、僕はこの学校に転入することになった。




「じゃあ妙さん、新八くん。これから頑張ってね」


校長先生との挨拶を済ませ、僕等は校長室を後にした。
隣を歩いている姉さんは終始にこにこしていてとても機嫌が良さそうだ。


「今から教室向かうから、軽く自己紹介でも考えといて」

前を歩いている僕の担任がそう言ってこちらを向く。

若く軟弱な体つきを見るからに、性格ももろひ弱そうだが、実際は少しいい加減そうにも見える。

もっと美人で可愛い先生だったらよかったのに。なんて的外れなことを考えてみたら
ちょっと気持ちが和んで、今朝からの緊張と気だるさが解れてきた。

…気がする。


「…では。3年生はこの階なので」

姉さんの隣を歩いていた彼女の担任の歩みが止まった。
少し、僕の担任と話をするらしい。


…あぁ、これから一人か。

僕は姉さんの側に近寄ると、無意味に彼女のセーラー服の袖を掴み黙った。


「…新ちゃん」
「…」
「妙さん、行こっか」
「あ…はい」


姉さんはきゅっと僕の手を掴み、僕の頭を軽く撫で、優しそうに笑った。


「新ちゃん、ファイト」
「は、はい。姉さんも」


遠ざかっていく姉さんの背中を見つめながら、
僕も担任の後を追って、教室へと歩き出した。







「席着けよー、皆遅刻にするぞ」


3階まで階段を上がると、ガヤガヤとした声が廊下まで響き渡ってきた。
そのざわめきが段々と緊張を煽ってますます憂鬱になる。

先生は先に教室のドアをガラリと開くと、
僕を廊下に待たせて扉を閉めた。


2年B組。
ここが僕の半年間過ごす教室。

廊下の窓の方に背中を預けて、少しだけ中の様子を窺ってみる。
先程は酷くざわついていたがさすがに先生が来ると静かになるみたいだ。


ふと、視線をずらすとこちらを手招きする先生が見えた。
…いよいよだ。


軽く深呼吸し、何気に重たい扉が音を立てないよう、両手でそっと開いて足を踏み入れた。



教室に入ると、痛いくらいに突き刺さってくる皆の視線。
その重さに耐えかね、思わず俯き加減で先生の隣に立った。

しかし、遠くから聞こえる小さな声が気になり辺りを見渡す。

なんかあそこの席ら辺、僕見ながらヒソヒソ話してるな。感じ悪…。


「志村、新八です。よろしくお願いします」
「はーいじゃあ志村君は、今空いてる2つの席の窓側の方ね」
「は、はぁ」


挨拶を考えとけなんて言っていたのに…、随分簡単に終わってしまった。

まあ、少し腹が立ちもしたが、内心ほっとしてため息をついた。人前で囃し立てられるのは好きじゃないから。



空いている席を探し後方にそれを見つけると、リュックを背負い直して足早に立ち去ろうとする。

その時、妙なものが目に入った。


げ、後ろの人の髪の毛すごっ!は…はくはつ?しらがじゃないよね。


一人異様な髪色をした生徒の存在に気付き、狼狽えている僕に先生が横目で早くしろと促す。


白髪から何故か感じる威圧感に戸惑いながら、僕は彼と目が合わないように下を向いて席に腰を下ろした。

その時。

「よっ」


え?
…今のは、多分………


明らかに、すぐ後ろから僕にかけられたと思われるその声に、
一応応えなければと恐る恐る振り返る。


「よろしくー」
「…よろしく」


明るそうなその声にふと顔を上げると、白髪はニカっと笑って
「ん」と満足そうに唸った。

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