メンデル研究室
□フラッシュアウト
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会いたい…って変かな?
あの人と居ると安心するんだ
まだキラがキラであった数ヶ月前…。
「また花を植えるよ」
その言葉にみるみる赤い眼を潤ませ、涙を溢す少年を見てキラは羨ましく思った。
ザフトのエースパイロットとの和解は戦後、間もなくしての出来事だった。
その時には既に、最高のコーディネーターの「欠陥」が現れ、キラを蝕んでいた。
笑う・泣くといった表情が、ココロが死んでいく感覚。
感情が枯渇していく中で、五感は研ぎ澄まされていく一方だった。
『人の夢、人の業…』
かつて自分の事をそう呼んだ男を思い出した。
強過ぎる力に、こうして自らも飲み込まれようとしているのに?
「ねぇ…ラクス」
「何です?」
オーブ本国へ発ったアスランとカガリを見送った後、キラとラクスは海岸線で夕日を見つめていた。
「これで…強い力はもう必要ないよね」
「時に争いを生む火種にもなりますから…戦争が終わった今は不必要なものでしょうね」
ラクスはフリーダムの事かと思ったのだろう。
だが、キラにはその答で十分だった。
「安心した…」
陽光が照らす、オレンジ色に染まった世界。
自分を温かく見守り、支え続けてくれた親愛なる友とキラは向かい合った。
「キラ…?」
「…トリィをね、貰って欲しいんだ」
誰かに縋らない覚悟。
カガリとアスランには幸せになって貰う必要がある。
アスランは僕の事を時折、親友以上の目で見ていたのを知っていた。対する僕は、気付かない振りを装って…卑怯だった。
カガリはアスランが好きだったから邪魔をしたくなかった。
「ラクス、手出して?」
片時も離さなかった電子ロボットをラクスの掌に乗せた。
幼い頃のアスランとの別れ際もこんなだったなと、ぼんやり思い出した。
「これは貴方の…」
「分かってる。でも、ラクスなら大切にしてくれるよね?」
キラの意図が掴めず、不安な表情を見せるラクスに何も言わず笑ってみせた。
…が、うまく笑えていたかキラには分からない。
笑顔を思い出し、それに似る様に口角を上げてみただけだから。
心に決めていた。
メンデルの禁忌を、成功例を自ら棄てる事を…。
僕が壊れないうちに。
ザフトから都合の良い話が来たのは、それから数日たった頃だった…。