フェブラリウス市市長室


□傷も疼いちゃうバースディ
1ページ/2ページ


今日、8月8日。
自分の誕生日を思わず呪いたくなった。



何故なら



普段より5割増しで、どこからともなく沸いて出てくる煩い女共をきゃわさなければいけない。
早く帰宅したいにも関わらず……また一人近づいてきた。


「ねぇ、この後空いてるんでしょ?ショッピング…「何が悲しくて貴様の買い物に付き合わなければならない!!」

本日何度目の台詞だろう。
ねちっこい女を一喝したところで、渡りに舟。
見慣れたダークグリーンのジープが目の前に止まった。しがみつくようにドアノブに手をかけると、開けられる事が分かっていたかのようにドアが開いた。

「遅いぞ」

ジープの助手席のドアを開け、体を滑り込ませるより先に放った言葉に運転席のディアッカはむすっと顔をしかめた。
同じ大学だが、今日だけは本人曰く『自主休講』
…即ちサボり。

「いつ迎えに来るって約束したんだよ」

「お前が車のキーを手に取った瞬間だ」

壊れるんじゃないかと思う程の音を立ててドアを閉めた。
これで煩い女共に頼んでもいない誕生日プレゼントを突き出されたり、甘ったるい声に苛々させられる事もない。表情には出さず、内心ほっと安堵していると隣から声が掛かった。

「んで、どっか寄るの?」

「帰る」



了解。というディアッカの気の抜けた返事と共に車がゆっくり動き出した。





エンジンの駆動がシートを通して伝わってくる。流れる景色を眺めていると、隣からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。アイツがそういうリアクションをとる時は…言い出し難い事だと決まっている。

「何だ」

「せっかく女の子が…」

「今日はお前が大学サボったせいで大変だったんだぞ!煩い女を払うのも一苦労だ」

今日一日を振り返る。
行く先々でプレゼントが何だとかデートがどうだとか授業中、廊下、果てはトイレにまで。

いつもは視線一つでディアッカが払ってくれていたのだが、どうして今日だけは休んだのか。
それを思うとイザークは段々イライラしてきた。

「大人気じゃん…でも断るならもっとやんわりと断れよ」

「要らんと云うのに押しつけてくる女にか!?」

睨むように隣をみると「だから…」や「取り敢えず」等接続詞を連発したのち最後は「ごめん」で締められた。

―言いたい事があるならハッキリ言え!

舌打ちこそしたがイザークは何も言わず、体の向きを窓側に向けると、それっきり車内は静かになってしまった。

マンションの駐車場につくと停車出来る位に速度が落とされたのを確認すると、シートベルトを外し、ドアを開けた。

「あ…おい!?」

「先行ってるぞ」

女の話を切り出されて以来、気まずくなった車内から早く解放されたかった。
ディアッカが何か言っているが再び、叩きつけるように閉めてやったドアの音で掻き消された。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ