メンデル研究室


□フラッシュアウト
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キラは許してくれるだろうか?
俺の望み…




メディカルセンター中央口で待っていたのはタッド・エルスマンだった。

フェブラリウス市の代表議員が居たものだから、イザークは慌てて一礼するとタッドは可笑しかったのか、笑いを溢した。

「お久しぶりです」

「久しいね、イザーク君。エザリアから聞いているよ…私が案内しよう」

最上階のボタンが押され、静かにエレベータは上昇を始めた。

「…どういう事なのですか?」

「我々に甚大な被害をもたらしたフリーダムのパイロットを軍事裁判に掛けるべき…とね」

「そんな…!」

「彼は別の方法で自ら申し出たんだ。記憶を消してくれと」

軍事裁判よりも、容易いその方法は簡単に水面下で動く議員らに了承された。

エレベータが止まった。

イザークの思考もまた同様に…。

「我々の耳に入った時には、それは強行された後だった」

悔し気に歪められたタッドの表情は、彼が足を早めた事でイザークからは見えなくなった。

フロアに、二人の靴音だけが響く。

一番奥の部屋までたどり着くと、タッドはキーを入力し部屋のロックを解除した。

「キラ君…客人が来たよ」

静かに、落ち着いた声で云うと部屋にイザークを通した。

何も無い、白い部屋。

ぽつんと置かれたベッドの上にキラは居た。上体だけ起こし、宙を見ている。

「…キラ?」

反応をみせたキラはゆっくりとイザークを見た。

入院服を着せられている以外は外傷も無く、普段通りの姿にイザークは安心する。

「キラの事、知ってる…悪い人?」

「ち、違う…」

近づいてきたイザークを警戒し、ベッドの端に寄ったキラは自らの身体を掻き抱いた。不安からか、紫の瞳がゆらゆらと揺れている。

酷く狼狽し、怯えるキラの姿にイザークは胸が痛んだ。
記憶を消される事を望んだ本人も今では何故此処にいるのか、誰なのかすら分からず、周りが…世界が怖いのだ。

目の前にいるのは、器だけになったキラ。

上の目論見通りフリーダムのパイロットは消されてしまった。

「誰…?」

「…イザーク・ジュールだ」

ベッドの前まで歩み寄ると、なるべく刺激しないようにイザークは屈み目線を合わせる。

「今度は俺が…護る、から」

「………」

「だから…」

言葉が続かない。
対面して分かる辛さに、イザークは目を伏せた。

キラは何もかも忘れてしまっていた。脱け殻のような彼を見ていられなかった。

そんなイザークをじっと見つめていたキラは強ばらせていた身体を弛ませる。
緊張と不安が入り交じる心のまま、彼ににじり寄る。

「キラ…イザークと会ったの初めて?」

さらさらとした銀髪を梳き、キラの細い指先が頬をなぞる。

「…え?」

「あったかい気持ち…」

それが何なのか全く分からない。ただ、目の前の人物を知っているような気がした。

「分からない…」

空白の記憶から何かを絞り出そうとするキラは頭を押さえた。

記憶のどこかで自分の存在が繋ぎ留められていた事に、イザークは喜びを噛みしめる。

「無理するな…大丈夫だから」

浅い呼吸を繰り返すキラをイザークは優しく包みこんだ。漸く抱きしめる事ができた愛しい存在は、抵抗もせず腕の中に納まったまま動かない。

「嫌…」

キラは涙声で呟いた。

「イザーク、きっと大切な人。でも…キラ、キラは何?イザーク…は誰?」

「キラ!?落ち着け…!」

腕の中で藻掻くキラを躍起になって抱きしめるイザークの背後で人の入ってくる気配がした。

「イザーク君、そのまま押さえててくれ…」

様子を見にきたタッドがキラの様子をみるなり駆けより、キラに注射を打った。

「イザー…」

縋るようにイザークの服を弱々しく握り、キラは瞼を閉じた。
鎮静剤が効いた事を確認すると、タッドは眠るキラをベッドに寝かせた。

「…不安定な精神を落ち着かせるには当分、時間を要するだろうな」

イザークは眠るキラを見つめ、それから傍らのタッドに向き直った。

「私が支えていきます。キラが許してくれるのであれば…」

「キラ君も君を必要としているんじゃないか?」

優しさを滲ませ、微笑むタッドにイザークは頷いた。

「今度は俺が護る…」

キラが本当に忘れたかったものの変わりに、沢山の安心で満たしてあげよう…。

戦争を知らない、温かい世界で


†END†


一気に書きあげたら内容・内容薄いのなんの…。

お互い想いを伝えられぬままリセットされてしまうって、イザキラ的にはバッドエンドです。
ですが、唯一心が微かに覚えている安心出来る存在のイザークを得たキラと、記憶を失いたいと願う程苦しんでいたキラを護っていく決意をしたイザークにとってはハッピーエンドなんです。

毎度毎度荒削りな作品で、読んで下さる方いらっしゃるのか分かりませんが…
精進していきます。
愛故に!
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