星にいのりをーReleaseー

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「………合格」

アンナはたった一言だけ言ったが、竜を喜び勇みさせるには充分だった。

「え……!?」

「早速今日から働いてちょうだい」

「ぃよっしゃあああああああ!!!」

竜はガッツポーズしながら大喜びしているが、竜の仲間達はやや不安げにぼそぼそと話し出した。

「一体どんなテストなんだよ?」

「ていうか、"働いてちょうだい゙って…!」

それぞれが思い思いの事を口にしている間にも、葉達は待ってましたと言わんばかりに料理を食べ始めていた。

「すんごいウマい!」

「ホントプロ並みだね!」

「いつも料理だけ優梨に任せっ放しのあんた達とは雲泥の差だわ」

「「はい…全く…」」

「アンナちゃん…」

確かに葉とまん太は他の家事はしっかりやるが、アンナの判定が一際高い料理だけは(出来ない訳ではないけど)苦手で、それは手際が良くて料理上手な優梨に頼ってばかりだった。ひどい時には買い物から丸投げしたこともある。
優梨本人も嫌々やってはいないので良いのだが。

「あれ?でもこのテストってシャーマンあんまり関係無いんじゃ…………………あ゙」

優梨が何かに気付いた。

「あ…アンナ…お前…」

「もしかして…竜のことお手伝いさん代わりに…?」

凄まじいまでのアンナの人使いの荒らさを考えると、ほぼ100%正解だ。
背後にはアンナの思惑など露知らずに喜ぶ竜の姿が。

「でも葉くん…」

「ん?」

「お手伝いさんが増える…って事は、一人分がやる家事が少なくなるって事だから葉くん修行の時間伸びるんじゃない?」

「はっ…!?」

優梨が葉に伝えた事はそれ即ち、葉がやる家事が少なくなる=アンナの修行の時間が更に増えるという事。大変だ。

+++

「これが修行のメニューよ」

竜に渡された紙、もとい修行のメニューが書かれた紙には字がびっしり。

「その通りにやってちょうだい」

「わかりました!アンナ女将!必ずや立派なシャーマンになってご覧にいれますぜ!!」

「その意気よ」

こうして修行もとい家事手伝いが始まった。

+++

始めはまん太と広い風呂掃除。
元民宿の温泉宿なだけあり、広さは半端ではない。傍らでは竜の仲間であるマッスルパンチ(あだ名)、ボールボーイ(あだ名)、ブルーシャトー(あだ名)が竜の修行メニューを読んでいる。

「朝食は七時半厳守…
洗濯と掃除は午前中に終わらせること…
昼食は十二時ジャスト…
昼休みは一時から二時まで…
午後は風呂の掃除と…

…ってこれのどこが修行なんだ!?」

「あぁ、ほとんどお手伝いさんだぜ」

「ねぇ竜さん…」

ブルーシャトー(あだ名)は内容に疑問を抱き、竜に声を掛けたが当の本人は床のブラシ掛けに夢中で聞く耳持たずだ。

「うるせぇなぁ…俺は今修行で忙しいんだよ!お前らとお喋りしてる時間は無ぇんだ!」

「修行って…風呂掃除じゃないすか!」

見れば分かる。

「ったく…何も分かって無ぇなお前ら!」

「いやだって分かるも何も…!こんなん修行じゃないっすよ!」

マッスルパンチ(あだ名)は正論を口にしたが、竜は全く気にしていない態度だ。

「どこが?立派な修行じゃねぇか!」

「えぇ?朝からずっと家事ばっかりじゃないすか…」

ボールボーイ(あだ名)の言うことは確かだ。アンナに渡された修行メニュー通りに竜は動いているがそれは修行ではなくほぼ全部家事。家政夫が雇われたようなものだ。

「弟子が師匠の身の回りのお世話や、家の仕事をするのは当然だ!」

「じゃあ肝心のシャーマンの修行はどうなるんです?」

その言葉に竜はあからさまに呆れた様子でため息を吐いた。

「だからてめぇらは何も分かってねぇんだ!
いいか?技ってのはな、教えてもらうモンじゃねぇ…盗むモンなんだ!家事を手伝いながら、葉の旦那と一緒に生活する…アンナ女将もイキな計らいをしてくれるぜ!」

もうこれ以上言っても無駄だと悟った三人は、今度は揃ってため息を吐いた。
やがて話し込んでいる間に風呂掃除を終わらせた竜は、バケツとブラシを持って意気揚々と風呂場から出ていった。

「さーて、盗みに行くとしますかね」

そんな竜の後ろ姿を見てまん太は、竜のあまりのポジティブさと人の良さを実感していた。
ただし、呆れた顔で。



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