星にいのりをーReleaseー
□08
1ページ/7ページ
「………は?」
その日はいつも以上に間の抜けた葉の感嘆語から始まった。
「俺を弟子にして下さい!旦那!!」
そう言って土下座してきたのは、なんとびっくり。
あの木刀の竜だった。
おまけに背後には大人数の竜の仲間達も勢揃い。これには一同唖然とするしかなく、ユルい葉も今回ばかりは目を丸くして驚いている。
「……オイラに言ってんの?」
「葉の旦那以外に、誰がいるって言うんです!!」
すると竜は頭を起こし、耳を疑うような発言を口にした。
「俺も、シャーマンになりたいんです!!」
「えぇ――!?」
「なにぃぃ――!?」
急須を持ってアンナの湯呑みにお茶を入れていた優梨とハタキを持って家を掃除していたまん太はずっこける程驚いた。
葉に対する態度が180゚変わった竜にもびっくりだがこの上シャーマンになりたいという発言は二人を突っ込みの境地へ誘うには充分だった。するとそれを見兼ねた竜の仲間がまん太と優梨に耳打ちした。
「葉さんの戦いを見て、すっかり感化されちまったんだよ…」
「こっから長いよ、話…なぁ?」
「あぁ…」
竜の仲間達は苦笑いしながらぼそぼそ話していた。
「…俺は、見ての通りのハンパ者です。ウチに部屋も無く、社会にも居場所は無ぇ…楽しみといえばここに居る気心の知れた仲間達とバイクを乗り回すことぐらい…。それにしたってガソリン代が必要だ…」
真剣に話す竜の話に、葉達は耳を傾けている。
「全く…世知辛いっすよね世の中…。
バイクに跨りながら、いつも考えるんです…俺はどこから来て、どこへ行こうとしているのか…。
先の見えねぇハイウェイをただひたすらぶっ飛ばす…走り続けていれば、いつかどこかに辿り着くと信じて…。
一言で言えば…そう、俺は行く宛ても無くさすらう心の旅人……。
そんなトコっすかね…」
そこまで言い終えると、竜は優梨が律儀にも全員分に淹れた茶をすすりだした。
「だから何が言いたいの――!!?」
長話にいい加減己に宿るツッコミ精神の衝動が抑えきれなくなったまん太は大声で突っ込んだ。葉は最早、よく分からん。という表情をしていた。
「旦那!!」
「うぃ?」
「俺は旦那の戦いっぷりに漢を見ました!シャーマンこそ、男の生きる道!!
どうかこの俺を、弟子にしてやって下さい!お願いします!!」
竜は再び土下座の体勢になってしまった。
人から頭を下げられる事に慣れていない葉はたじたじ、とばかりに苦笑い。
「うーん…そう言われてもなぁ……」
「いいわよ」
葉に向けられた言葉なのに、返答したのは何とアンナだった。しかも返事はOK。
「テストに合格できたら、の話だけど」
+++
――二時間後。
「できやした!アンナ女将!!」
そう言って麻倉家の食卓に並べられたのは豪勢な料理だった。
お造りに焼き魚に煮物。高級料亭に並んでも不思議ではない出来の食事がズラリとやや狭いダイニングテーブルに揃っている。
「おぉー!」
「す…すごい…」
「美味しそう!」
葉とまん太と優梨はそれぞれ目の前に並んだご馳走に目を輝かせている。
ちなみに席は葉とまん太が隣同士に座り、向かい側にアンナと優梨が隣同士だ。
「ふっ…料理にはちぃとばかし煩いぜ」
すっかり板前服になった竜は自信満々に鼻を鳴らした。
「…でも…アンナちゃんも結構舌肥えてるからなぁ…大丈夫かは五分五分だよ」
優梨がぽつりと言った一言は竜を少し震え上がらせた。
「………」
アンナは自分の箸を手に取ると、近くにあった煮物に手をつけた。
箸に持ち上げられた芋がゆっくりアンナの口へ運ばれていき、全員が見守る中で静かに飲み込んだ。
「……アンナ…女将…?」
緊張の一瞬。(竜にとって)
.