星にいのりをーReleaseー
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どうしていつもこうなっちゃうんだろう。
葉くんは私の初めての友達なのに。友達になってくれた人なのに、私は彼に何もしていない。
葉くんはいつも私を守ってくれて、苦しみや悲しみに優しさを示してくれて。
それなのに私はただ葉くんを陰からがんばれって言う事しかできない。これじゃ本当にただの足手まといで、役立たずだ。
「…はぁ…」
いつも三人で並んで走る足も、今は怖いものから逃げ出す為のズルいだけの逃げ足だ。
自分があそこに残ったって、何かできる訳じゃない。だけど葉くんが一人だけ傷だらけになって戦ってるのに、私は逃げたくなかった。
でも逃げてしまったのは私も巻き込まれて死んでしまうかもしれない、という恐怖が勝ったからだ。
こんな事で逃げるようなら誰かを助けるなんてことできやしないのに。
「優梨ちゃん!?」
ふと、名前を呼ぶ声が近くでしたので優梨は顔をあげた。
そこには小さな手足を一生懸命に振って走るまん太の姿が。随分走ったのか、凄く息切れしている。
「よかった!ねぇ、優梨ちゃんも手伝ってよ!」
「て…手伝うって何を?」
「葉君と阿弥陀丸に、握りのある刀を持って行ってあげるんだ!」
「え!?」
確かに阿弥陀丸は握りのある刀をがあれば何とかなると言っていた。だが今は夜も更けた時間帯なので、刀を待って貸してくれる施設も既に閉まっているはず。
「でも…こんな時間じゃ誰も刀なんて貸してくれないよ…」
「優梨ちゃん!そんな事言わないでよ!葉君が死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「でも…」
優梨がまた弱気な言葉を発しようとしたが、それは彼女の頭に勢いよく降ってきた謎の攻撃によって阻止された。
「…いっ痛ぁっ……」
若干涙目になりながら見てみると、まん太がいつも持ち歩いている分厚い万辞苑が自分の頭に乗っている。
どうやらまん太がこれを使って殴ったようだ。
「何後ろ向きになってんの優梨ちゃん!僕達、葉君の友達じゃないか!少し位の後押しなら、僕らにもできるよ!
何もできないなんて事ないじゃないか!!何かしてみようよ!してあげようよ!
やってみなくちゃ分からないじゃないか!!」
「…まん太くん…」
友達。そうだ。私達は友達なんだ。助けるのに理由なんて要らないし、怖くて逃げ出す事だって決して悪いことじゃないんだ。
何も悩む必要なんてなかったんだ。
(葉くんに頑張って欲しいなら……私だって!)
何か役に立てるはずだ。
葉がいつも助けてくれるなら、自分も葉を助けたい。
そう思って行動しなきゃ、何も始まらない。まん太が殴ってくれたお陰で目が覚めた気がする。
「…まん太くん!」
「え?」
伏せていた顔をあげて、突然立ち上がった優梨にまん太は驚いた。
「私、郷土資料館行ってみる!あそこの春雨取ってくるから!」
言ってる事は一歩間違えたら泥棒だが、そんな事も言っていられない。これは緊急事態なのである。
優梨はいつだって一度決めたら決してその決意を曲げない。素直で、直情的な彼女にはまん太も元気をもらえた。
+++
優梨は以前三人で一緒に行った郷土資料館へ走った。
しかし門を見てみると『閉館』の札がかかっていた。
「えぇ?そんな…」
遅い時間なので冷静に考えれば当たり前なのだが、熱くなっていた優梨は全く分かっていなかった。
長い間走って上がった息を整えて、優梨はがっくり肩を落とす。
いっそ扉を蹴破ろうかとも思ったが流石にそれはマズいのでやめた。何よりシャーマンでもない自分にそんな芸当できる筈がない。
「まん太くんの方はどうだろう…?」
確か商店街にあるスポーツクラブを訪ねて来ると言っていた。
+++
「まん太くん!」
「あ!優梨ちゃん!そっちはどうだった?」
「こっちは閉館だった…まん太くんの方は?受付の人ぐらいは居るはずじゃ…」
「事情で明日まで休みって貼り紙があって…」
「うそ…こんな時に!」
早く行かなきゃ葉が死んじゃうかもしれないのに。
学校の倉庫は鍵がかかっているし、他の施設はもうとっくに人っ子一人いない。神に見放されたと思ってしまう状況だ。
「どうしよう…優梨ちゃん!」
「…ねぇまん太くん、あれ」
「え?」
優梨が指差したのは、木刀を持ってバイクで走り回る不良達。
だけど二人の眼中には握りのある木刀しか見えていなかった。
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