星にいのりをーReleaseー
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線路で電車の通過待ちをしている間もまん太が話す話題は白竜の事だった。
「李白竜はこう言った。"力と力の衝突では、相手だけでなく自分にもダメージを与える"ってね!"激しい衝撃には、反作用が生まれる。それがいつか限界に達したら壊れてしまう"って!」
「ほぉー…」
「日本で言う"重量、剛を制す"って奴さ。硬い枝は折れちゃうけどしなやかで柔軟性のある小枝は折れにくいだろ?
李白竜はフェイントと多彩な蹴り技で相手を翻弄するんだ!そうして…虚を突いて必殺の一撃を撃つ!
どお?シャーマンファイトの参考になるんじゃない?」
嬉しそうに白竜の事を語るまん太は本当に嬉しそうだ。
きっと自分の好きな事だからだろう。誰だって好きな事は幾らでも語れるものだ。
「…シャーマンファイトと格闘技は違うよ…」
「そりゃあ…そうだけど…」
「でもまん太くん、何でそんなに私達に李白竜の映画を見せたがるの?」
「そうだよ…何かあんのか?」
二人からの疑問にまん太は一瞬だけ辛そうな表情を見せ、下を向いて呟く様に言った。
「……葉君と…優梨ちゃんに…知って欲しいんだ。
僕が好きな物を…知ってもらいたんだ…」
少し自己中心的な考えを拒絶されるのが怖いのか、まん太は始終顔を下げていた。
「へぇ……そっか!」
葉は拒絶するどころか、にっこり笑ってその答えを受け入れた。
優梨にも視線を向けると、彼女も同じ様に笑っている。
「ならもっと聞かせてよ!友達の好きなものなんだから!」
優梨は本当に優しいと思う。いつだって自分達の事を考えてくれて、決して傷付く言葉を言わない。
自分がそんな彼女の優しさに甘えているのはわかっているが、目の前の二人が非常にオープンな姿勢なのでそんな優しい彼らには感謝してもしきれない。
「うん!」
まん太も本日一番の笑顔を二人に向けた。
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それからもまん太は止まらなかった。
「李白竜の凄い所は、それが映画の中だけのフィクションじゃないって事なんだ!」
「ほぁー…」
「フィクションじゃないって…今まで言った様な事、全部ホントの事なの?」
「そうだよ!凄いでしょ!」
+++
葉がご飯を食べている時もまん太の口から出るのは白竜の事ばかり。
だけど二人はその話に興味津々だ。
「彼は、世界中の格闘技をミックスして独自のカンフー、導弾道を編み出した!」
「「だおだんどー?」」
葉はご飯を食べる手を止め、優梨はお茶をすするのをやめてまん太を見た。
「史上最強の格闘技と呼ばれている、一撃必殺の拳法さ!中国で言うダオダン、つまりミサイルの様な破壊力を持つって意味!」
「へぇ〜…!」
「何かすっごーい!」
「駄目よ。映画代なんて出さないから。」
テレビを観ていたアンナからのキツイ一言。それに三人は「えぇ――!?」と声を揃えている。
「文句あるの?」
「…!!」
これ以上歯向かったら色々と不味い。
葉はそれを感じたのか、食べかけのご飯をまた掻き込むようにガツガツ食べ始めた。
「でも、導弾道の真の目的は敵を倒すじゃないんだ」
「んぐ…ていうと?」
「葉くん、食べながらしゃべらない方がいいよ…」
優梨はさりげなく注意したが、さらっとスルーされ、まん太の話の続きを聞いた。
「李白竜が目指したのは、武道を通じて己を知る事…そしてこの世界の一番大元に存在する何かを見つけ出すことなんだ!」
「お前詳しいなぁ」
「へへん、常識だよ常識」
「でも深いんだね、その李白竜って、ただのアクション映画だと思ってた」
そこからまた話が発展して行ったが、それをアンナが遮った。
「何言ってんのよ。自分が弱いもんだから、つい強い者に憧れを抱いてしまうんだわ」
その一言にまん太はかなりショッキングな顔をした。
「憧れって…自分からかけ離れている程、強くなるものなのよね…」
アンナが言うとかなり説得力がある。というか雰囲気的にピッタリなのだ。
あまりのハッキリした物言いにまん太は隅で膝を抱えている。
「おい…この程度で気を落としてたら身がもたんぞ……」
「そ…そうだよまん太くん、そんなに落ち込む事…」
「かけ離れている…
そう、確かに遠過ぎるよ李白竜は…」
「え?」
突然シリアスで重たげな声になったまん太に、優梨は首をかしげた。
「17年前、彼は導弾道の完成を見ずに謎の急死を遂げたんだ…」
「え?死んじゃってるのか?」
「うん…しかも葬儀中に死体が消えて、遂に見つからなかったっていう謎を残して…」
まん太の話を耳に入れたアンナが、その話題に反応した。
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