星にいのりをーReleaseー
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今日も今日とて葉は修行三昧だった。
気休めでもいいから若干いつもより重いおもりをつけて走ってるのは多分気のせいだと思いたい。
まん太は自転車でその後を追いかけ、優梨は相変わらず画材道具一式が入った鞄を肩に下げて走っている。
しばらく走っていると一旦休憩できそうなベンチがあったので、三人はそこで止まった。
「ちょっとストップ…小休止、小休止……」
すると息切れしてベンチに手を掛ける葉を見かねた阿弥陀丸がまたどこからともなく現れた。
『頑張れ葉殿!もう半分は過ぎたでござるよ!』
「っていうかまだ半分!?
…はぁ…涙が心の汗なら汗は体の涙かなぁ…」
ベンチにどかっと座った葉は疲れているのか訳のわからないことを言い出した。その様子を見て、まん太は思わず尋ねる。
「しかしよく続けられるねぇ…」
「はぁ?」
「それよりおもり、何か段々増えてる様な気がするんだけど…」
まん太の疑問をあっさりスルーし、優梨は葉の手首足首に付けられた重りを指差した。
「………最近さぁ、飯が美味いんだ」
「『「はぁ!?」』」
突拍子も無い葉の言葉に、三人は愕然とした。
「つまり、おいしい飯を食う為に運動してるようなもんだなぁ」
そう言うと葉はまたいつもの笑い方で笑ってみせた。
「そんな…つらくないの?」
「うーん…
まぁ鍛えりゃオイラも阿弥陀丸も楽になるし…それに、楽しくなる様に考えりゃ楽しくなるもんさ」
『葉殿…』
「それにサボったらアンナちゃんの鉄拳が飛んで来るんだから、嫌でもサボれないもんね…」
優梨は困ったように笑いながら葉を見た。
それに葉は苦笑いで返している。アンナの鉄拳を思い出しているのか。正しくは強烈なビンタなのだが。
「この調子だと丼五杯は軽いな〜」
それは食いすぎだ。と一応突っ込んでおく。
「腹具合も丼勘定だね…」
「いいんじゃない?何でも楽しいと思える事って。羨ましいなぁ」
「そうか?」
葉は立ち上がり、また三人と霊一人で走って行く事になる。先頭に葉、その少し左斜め後ろに優梨、最後尾にチャリを漕ぐまん太という並びだったのだが、突然まん太が自転車をバックさせて掲示板に貼ってあるポスターに釘付けになった。
「ああぁ!!」
もう通過していた優梨達は突然止まったまん太に振り向いた。
「どうしたの?まん太くん」
「李白竜だって!!」
まん太が釘付けになったポスターには、『蘇る李白竜』という張り紙がしてある映画のポスターだった。
リバイバル上映と書かれている所を見ると大分昔の映画のようだ。
ちなみにタイトルは『白竜怒りの一発』。
「……何だ?李白竜って」
後から来た葉はさっぱり分からないと言った風に返した。
阿弥陀丸も顎に手をあてて考えている。
「知らないの!?」
まん太は信じられないと言った風に驚いていた。
『「…うん」』
「優梨ちゃんは!?」
「昔そんな映画がやってた事は知ってるけど、そんな詳しくは…」
知らない、と言おうとした優梨の言葉を遮り、まん太は自転車に立って話し始めた。危険ですので決して真似しないで下さい。
「李白竜は映画史上、いや、人類史上に残る伝説のアクションスターさ!」
葉はそれにふーん、と頷いたが阿弥陀丸は眉間に皺を寄せて、まん太の言葉の意味を考えていた。
『あくしょんすたー…?悪人なのでござるか?』
「とんでもない!
李白竜は正義の為に体一つで悪に立ち向かうカンフーヒーローだよ!超人的肉体を駆使したスーパーアクションと、独特の奇声で世界中をブームに巻き込んだのは歴史的に有名だよ!」
まん太の長説明に三人は
「…17年前じゃオイラ、生まれてないし」
『拙者も、死んだ後の話でござる故…』
「私も生まれてないし、映画観れる環境じゃなかったから…」
反応は千差万別だが、葉は優梨の言葉にふと疑問を抱いた。
「それって…?」
「だったら一度見てみなよ!絶対に感動するから!」
葉が優梨に対する疑問を言い終わる前にまん太が口を挟んだので、疑問が優梨に届く事は無かった。
「…ま、いいや。小遣いも無いしなぁ」
「私も肉質豪傑な男の人を見て喜ぶタイプの人間でも無いから…ごめんねまん太くん」
どんなタイプだ。
そう突っ込みたいまん太の新たな発見。
優梨は良い意味でも悪い意味でも正直者。という事だった。
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