星にいのりをーReleaseー

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「!!」

葉は絶句した。

まずい。アンナは優梨に敵対心を剥き出し(という訳では無い)だ。
アンナはキツイ性格だから気にくわなかったら優梨もしごく。

(それだけはッ!!)

でも口出ししたらしたでそれも怖いので、黙っているしかない。…そんな自分が凄く情けない。

「あんたは?葉と親しいみたいだけど、挨拶のひとつも無し?」

アンナは困惑している優梨の前に立った。

「あ、挨拶。そうだよね。はじめまして!殊音優梨です。葉君とは意気投合しただけの友達で」

(葉君気をしっかり!優梨ちゃんはわざとじゃないんだよ!馬鹿正直…って言えばいいのかな?)

(お…おぉ…)


あぁ、優梨の言葉が心に突き刺さる。いや、悪気は無いのだ。優梨は決してアンナを悪く思っていない。寧ろいい人と取っている。初めての友達である葉の幼なじみであり、許嫁でもあるアンナと仲良くしたいのだろう。弾んだ様な口調に心からの素直な気持ちだと分かる。
…これにアンナがどう返すのかで優梨をどう扱われるのかが決まるのだが。


「……あんた…」

「?」

「好きな歌手とかいる?」

「え?あわやりんごさんが好きかなぁ。リンゴウラミウタとかいいと思う」

「紅白はどっち派?」

「紅組!」

さっきから一体なんだろうか。

「あんた………」

「!!」

葉は思わず身構えた。アンナが優梨に手をのばしたのだが、予想した結果は真逆だった。



「気に入ったわ!」

「…はい?」

優梨はぽかんとした。アンナは彼女の両手をがっしり掴んでいる。

「………あれ?」

葉は気が抜けた声を出した


「……………」

優梨は優梨で、ぽかんとした顔から次第にぱあああ、と効果音が聞こえて来そうな程表情を明るくさせた。

「はいッ!これからよろしくね!!」

「ええ!勿論よ!」


((ええええええ))

アンナと優梨はもうすっかり意気投合し、女同士の会話に華を咲かせていた。

「え――っと…」

最悪のパターンは辛くも回避できたが、逆に妙な信頼関係を築いてしまったのではないか?と思わずにいられない。

「ねぇ、喉渇いたわ。」

二人に気を取られていたまん太は、いきなり自分に降って来たアンナの声にびっくりした。

「ジュース、買って来てちょうだい。」

もう絶対王制だ。

+++

「全く…」

アンナと共に病室に残った優梨はどっかりとベッドに腰掛けた彼女に苦笑いを溢した。

「あはは…」

「……ねぇ、優梨」

「ん?何?」

「あんたって、霊が見えるだけ?」

「?うん。小さい頃からずっとそうだけど…」

「……そう」


+++

病院内の自販機で、まん太はぶつくさ文句を言いながらジュースを抱えていた。

「なんなんだあの娘は?何で僕がパシリなんかしなきゃいけないんだ?
…言いなりになってる僕もどうかと思うけど。

それはそうと……
何で着いて来たの?」

まん太の後ろには怪我をして寝ている筈の葉がくっついて来ていた。

「…。」


暫く沈黙が続いたが、これ以上遅れたらまたアンナに文句を言われかねないと思ったまん太は病室に戻ろうとした。

「行こう。待たせたら何言われるか分かったもんじゃないよ…」

「えぇ?もう?少しのんびりして行こうぜー…」

葉のこの反応から、随分とアンナの所に戻りたくないのが分かる。

「…何か戻りたくないみたいだね…」

+++

まん太は(大体予想はつくものの)アンナについての事を葉から聞いていた。

「許嫁ってホントだったんだー…」

「…ああ…」

「今時スペシャルな話だよねー。親同士が結婚相手決めちゃうなんてさ」

「…シャーマンはシャーマン同士って事なんだろうなぁ…多分」

「え!?じゃああの娘もシャーマンなの?」

「アンナはイタコさ」

「イタコ…」

まん太は成程、と納得した。辞書や辞典に載っているシャーマンとイタコは、ほぼ同じものだと同一視されている。
青森県の恐山を中心に修業を積み、冥界から霊を呼び出す『口寄せ』を得意とする女性シャーマンの総称だ。

「あれ?でも葉君…どうするの?優梨ちゃん…」

まん太は密かに二人が上手く行く様にと思っていたのだが、元々許嫁がいたのではハナから違う女の子を想うのは許されないんじゃないだろうか。
性格があぁいう風にキツイのでは尚更だ。
それが伝わったのか、葉は深々とため息をついた。

「いつかこういう日が来るとは思ってたけど…とんでもない事になっちまった……」

「分かるよ…僕だって好きな娘がいるのにいきなり許嫁が現れたらどうしていいか分からないもん…」

「……いや、それもあるけどそうじゃなくて……」

「?」

「アンナだよ…あいつには会う度に泣かされてた記憶しか無い…」

(分かる様な気がする……!!)

「それに…」

葉は寂し気な表情を浮かべている。

「アンナは鍛えられた優秀なイタコ、ひきかえ優梨はただの霊が見えるだけの人間…オイラの気持ちより質で見るなら、家族はアンナを取るだろうから文句の言い様も無いんだ…」

「そっか…」

それはまん太も何となく感じていた事だ。許嫁が決められているという事は、葉の家はそんじょそこらの一般家庭では無いのは明らか。そういった家は血筋や能力を第一に取るから、葉の淡い恋心が報われるのはかなり難しいのだ。



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