星にいのりをーReleaseー
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結局勧誘に失敗した葉含め三人は川が流れる橋に来ていた。
「全く…!何考えてるんだ君は!?」
「…何が?」
勧誘の失敗からか、葉はちょっと憂鬱気味。まん太の怒りの叱咤にも上の空だ。
「何が?じゃないよ!よりによって、あの侍を仲間にしようだなんて!」
「確か阿弥陀丸って…鬼人って呼ばれてた人だよね?
自分の御殿様に逆らって、捕えに来た何百人もの家来達を情け容赦無く斬り殺した…なんて伝説があったっけ」
「優梨物知りだなぁ」
「だって、この辺りじゃ有名な話だもの」
優梨が阿弥陀丸の伝説がすらすら語ると、それを聞いたまん太は更に勢いをつけた。
「そうそう!分かっただろ?そんな奴を持霊なんかにしたら間違いなく取り殺される!絶対に止めた方がいいよ!」
「でも…私は実際に見てそんなに悪い人には見えなかったけど……」
「優梨ちゃんは優しいからそんな事が言えるんだよ!
僕からしてみりゃ、アイツはそりゃあ恐ろしい奴さ!」
優梨はうーん…と口に手をあてて考えている。
「葉くんはどうなの?」
「うんうん!」
結局自分で結論は出せないと思った優梨は話を当人である葉へバトンタッチ。まん太はやけに意気込んで葉の回答を期待している。
しかし本人は答えに悩む様子も見せず、あっけらかんと笑って見せた。
「その話がホントならスゲー強そうだ!やっぱ仲間にしよー」
あっさりまん太の話を受け流した葉に、まん太は頭を抱えた。
「ああぁ!聞いちゃいねぇ!」
そんなまん太の様子に優梨は苦笑いした。
「だって優梨が言ったのはただの伝説だろ?」
「だから信じないって言うの!?葉君!」
「ていうか…そんなのどうでもいいかなぁ…アイツと一つになった時、何かこう…暖かかったんよ」
葉は遠くを見る様な目で、心臓の辺りを押さえた。
「暖か…?」
ぽかんとした表情のまん太と目を合わせて、優梨は右側にいる葉を見た。
「あぁ、なんとなく分かんのよ。
霊と一つになると、その霊の本当の姿が…」
「葉くん…」
葉は時々遠くを見つめて、今とは違う別の場所に思いを馳せるような表情を見せる。
ボンヤリして、自分の心を空っぽに空ける行為は憑依した霊に心を明け渡すために必要不可欠なことなのだと、優梨はなんとなく理解した。
そしてその明け渡した心の部分で葉は、霊の気持ちを感じているのだろう。
「アイツは、悪い奴じゃないと思うんだ。
…でも、身を斬る様な冷たい風も吹いていた…
アイツ、何であそこを離れたくないんだろう?」
+++
翌日、阿弥陀丸の事をもっと知りたいという葉の要望に答え、まん太と優梨は阿弥陀丸が愛用していた刀が展示してある、町の郷土資料館を訪れていた。
が。
「って休みじゃん!」
資料館の入口には『本日休館』という札が掲げてある。
学校の社会科見学で来る程度の場所だったので、二人とも休館日など覚えてなかったのだ。
「せっかく来たのに…」
「はは、無駄足だったか」
途方に暮れていた三人の後ろに、清掃員らしきおじさんが自転車に跨って来ていた。
「どうしたんだい君達?何か用かい?」
+++
そのおじさんに事情を話すと、三人の為に特別に資料館へ入れてくれた。
「すみません…お休みなのに」
まん太が申し訳なく謝ったが、おじさんはそれを吹き飛ばす様に笑った。
「せっかく町の歴史に興味を持って来てくれたんだ。追い返す訳にはいかんよ」
「…あのぉ…春雨なんですけど…」
葉は早く刀が見たいのか、うずうずした様子を隠さずに春雨の場所への案内を促した。
「ははは…そうだったね。いやぁ、春雨もきっと喜ぶだろう」
「春雨が喜ぶ?」
優梨はおじさんの言葉に僅かに疑問を抱いた。
三人は春雨が展示されている所に案内された。
博物館資料保存の為の硬いガラスケースの中に、黒い鞘と一緒に長い経年劣化に耐えられず刃が錆びて灰色にくすんだ赤い柄の刀が置いてある。
「これが春雨かぁ…」
葉は錆び付いた春雨が入ったガラスケースにぴったりとくっついて離れない。
どうやら興味津々のようだ。
「鬼人・阿弥陀丸はこの刀をこよなく愛し、身体の一部であるかの様に使いこなしたという話だ…」
「「「へぇ…」」」
おじさんの説明に、三人は声を漏らした。学校の見学では一つの資料に関して深い解説をしてもらえないので、キャプションに書いてある以外のことを話されるのはなかなか興味深い。
ふと優梨は、先程の疑問を投げかけた。
「あの、さっきの春雨が喜ぶって一体…」
「夜になると、春雨は涙を流すという噂があってね…その硯泣く
声すら聞こえるというらしい…
刀は武士の魂と言うからね、阿弥陀丸とこの春雨は、強い絆で結ばれていたに違いない。できれば首塚の傍に置いてあげたいんだけど…
まぁ、せっかく来てくれたんだ。阿弥陀丸の代わりに春雨の話相手になってくれないか?春雨も喜ぶと思うよ」
そう言うと、おじさんは入口の方へ引き返して行った。
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