星にいのりを-Revolution-

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≡突然の事故≡


「火事だ―――!!」

「「「!?」」」

優梨が言いかけた時、突然の大声が周囲を轟かせた。更に火事だと伝える叫びもかなり近い。

「大変だよあんたたち!」

カウンターから慌てた様子で出てきたのは駄菓子屋のおばさんだった。顔を青くさせている。

「このビルの上の中華料理屋が火事だってさ!早く逃げるんだよ!!」

「「え!?」」


***

「何!?スプリンクラーが作動しない!?」
「それじゃあ屋上にある防火用水タンクも意味ねえじゃねえか!!」
「くそ!!消防はまだ来ねえのか!!」


三人が外に出てみると、駄菓子屋の丁度真上、二階のフロアから大きく火が立ち上っていた。その勢いに、葉も思わず驚く。

「すごい火…!」

「葉君!優梨ちゃん!早く逃げなきゃ!!」

まん太は直ぐ様身を翻して避難しようと走り出したが、葉はさせねぇよ、と言わんばかりにまん太のネクタイを思いきり引っ張った。

「待てまん太、中にまだ人がいるかもしれないだろ!」

「ぐはぁっ!!」

「葉くん首絞まってるよ!」

優梨が気付いた時には既にまん太の顔色は限りなく白に近かった。

「逃げ遅れた人がどうした!?今僕が死ぬところだったんだぞ!!」

「したらオイラと合体すりゃいいだろ」

「…葉くんと合体?」

優梨は若干引いているが、合体とは憑依合体のことだろう。そんな自分の発言も気にせずに葉は何かを考えはじめた。


「それよか危険なのは、焼死なんてムゴイ死に方をした人がまた悪霊になりかねないことだ」

「…!」

思い付くのは、つい最近悪霊となって自分に憑いたまどかだ。
ここで逃げ出すということは、またあんな霊がまた増えるのを黙って許してしまうことになるという事実に優梨はゾッとする。

「…ちょっと見てきてくれないか、阿弥陀丸!」

『御意!』

勢いよく飛び上がったのは阿弥陀丸。葉の命令で位牌から一気に炎が燃え盛るビルの中へまっしぐらに入って行った。

「飛んだ!!」

「霊なら火の中水の中どこへでも行けるし、壁をすり抜けられるから情報も速いからな」

「でも、もし中に人がいたら…」

もし火の燃え盛る建物に人がいたら、助け出せる可能性はゼロに近い。阿弥陀丸は幽霊だから人助けなんてできない筈だ。


『葉殿――!!』

阿弥陀丸の叫び声が聞こえた。
上を見ると、ビルの屋上で立ち往生しているのが見えた。

『中には誰もいないでござる!

しかし、屋上に子供たちが!!』

「子供!?」

「うそ!?大変!」

「消防車は見えないか!?阿弥陀丸!赤くて長っぽいヤツだ!!」

阿弥陀丸が急いで辺り一辺を見回してみる。車はこの御時世あちこちで走っているので、赤くて見慣れない車があれば阿弥陀丸はすぐに解るだろう。

『いかん!車が立ち往生で、とても……!』

辺りは突然の火事で交通網も大渋滞だ。その上興味本意の野次馬の車まで停まっていたり、通行人が立ち止まっていたりして消防車の到着を妨げている。
人間の野次馬根性というものは、傍観のつもりでも時として遠回しにトラブルの原因にもなるものなのだ。


「ど…どうしよう…!これじゃ子供たちは助からないじゃないか…!」

「しょーがないなー」

葉は「あたしの店が燃えちゃうよー!」と泣きわめいている駄菓子屋のおばさんを気にもとめず、おもむろに駄菓子屋の前で涼の役割を果たしていた冷水が入ったタライを持ち上げた。

「おばちゃん、ちょっと借りるよ!」

「葉くん!?まさかそれで火を消すつもりじゃ…!」

そんな無茶な、と思った優梨の思惑とは裏腹に葉はそれを勢いよく自分に被せた。当然葉は全身ずぶ濡れ。

「助けに行くに決まってるだろ!悪霊を増やすわけにはいかないからな」

「「なっ!?」」

まん太と優梨は二人して絶句した。今葉は何と言った。

「おーい阿弥陀丸!屋上までオイラを導け………

……!」



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