星にいのりを-Revolution-

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≡森羅学園中等部≡


「いやーっ
さっきのはビックリしたなー…おかげで目が覚めちまったぞ」

その後、なんとか遅刻せずにギリギリセーフで教室に滑り込んだ葉とまん太は無事出席日数に傷がつくことはなかったが、今日一日は剣道の試験があるので着いて早々道場へ移動となった。

「そりゃいいことだね。最近あの辺で物が勝手に壊れたり、しっかり立て付けた看板が落ちてきたりしてるんだって」

「へぇ…」

葉が歩きながら顎に手をあてて考え込んでいると、体育館に行く女子の会話が聞こえてきた。


「ねぇ、殊音さん今日も休みなの?」

「そうみたい…もう二週間経ってるよ」

「おかしいよね?あの子、学校サボるような子じゃないしさぁ」

「でもぉ、家にも帰ってないらしいよ」

「え?それマジだったの?あたしが聞いた噂じゃ惚れた男のトコに転がり込んでるとか言われてた」

「ちょっとやだキモーい!」


すれ違いざまの会話だったが、女子のおしゃべりは声が大きいので筒抜けだった。

「そういえばもう二週間も経ってるんだ…」

「ん?何が?」

「何がって…、今女の子達が話してた殊音優梨ちゃん!僕達のクラスでちょうど葉君の隣の席に座ってるハズの子だよ。ここ二週間くらい無断欠席してるんだ」

そういえば、左隣には自分が転校してきてから座っている同級生を見たことがない。いつも寝てばかりなので気にも留めていなかったが。

「…うーん…そりゃ困ったな」

「なんで君が困っちゃうんだよ?
それより困ることが他にもあるでしょ」

話し込んでいる間に道場に到着したようで、胴着に着替える。特に葉は苗字が『あさくら』なので出席番号的にかなり最初の方だ。

「第一、葉君は剣道の試験大丈夫なの?ウチの学校は文武両道だから、進級に響くこともあるんだよ?」


しかしまん太の心配をよそに結果は。


『楽勝でござるな』

「合格!」

「阿弥陀丸――!?」

パァンと小気味良い音を鳴らしてあっという間に面を取ってしまった。よく見ると葉は阿弥陀丸を憑依合体させている。
確かに本物のサムライである阿弥陀丸にしてみればこんなものはただの子どもだましだろう。


『サムライとは恩義ある君主につき従う者也……故!拙者、葉殿にどこまでも憑いて行くのでござる!』

「へ?」

「ウェッヘッヘッ、他にも味方増えたんだぞ」

「は?」

突然の事態にまん太が右往左往していると、葉の隣から一気に幽霊が現れた。

「この学園生活に欠かせない様々な霊(エキスパート)達だ!」

「ギャ――ス!!」

まだ霊がいきなり現れることに慣れていないまん太は泣きながら飛び上がる。

「えーっとぉ、右から5年前にイジメ自殺した成績学年トップのスズキ」

『エヘヘ…テストだけは得意ですから』

スズキはおかっぱ頭にメガネをかけた男子生徒だ。発言が既にガリ勉らしい。

「その隣が、マラソン中にバイクにぶつかって死んだ陸上部キャプテンのコバヤシ」

『走りなら任せてくれッス!』

スポーツ刈りの男子生徒が受け答える。なんとも暑苦しい。

「んでその隣が15日徹夜して死んだ美術部兼まん研のアシダに、発表会を目前に病死したピアニストののり子」

ベレー帽をかぶった、いかにも芸術家な男子生徒と黒いロングワンピースに金髪の女子生徒。受け答えはないが、まん太が顔を青くさせているのを真顔でガン見している。

「みんなこの学校に思いを残してたみたいでな!これなら何があっても平気だろ!」

ケタケタと明るく笑う葉に、まん太は声を荒げた。

「このひきょうもの!!」

「ひきょう?」

「そうだよ!テストってのは自分の実力を測るもんだろ!なのに他人(霊)の力で済ませちゃったらだめじゃないか!!」

まん太の言うことは最もだ。これではアレコレ他人任せにして自分はぐうたらしているのと変わりない。なんの苦労もせず、ただ毎日が過ぎるのを待つばかり。
だが葉はあっけらかんとしている。

「なんで?オイラはプロのシャーマンになるんだから別にいいじゃないか」

「…はぁ?プロ?」

「うん。プロのミュージシャンとか美容師といっしょだよ。

よーするにコレがオイラの実力なんだからどんどん使えばいい!学校のテストなんか世の中に出たらオイラにゃカンケーないし、フツーに卒業出来ればそれでいいからな」

だから学校でやるテストなんて卒業できるだけの単位が取れていればどうでもいいというのか。今まで自分の努力で良い成績を保ってきたまん太はとうとうキレた。

「そ…それでいいからって…!それじゃ君はそうやってなんの努力もせずに…!一生人の力を借りて生きるってのか…!?

見損なった!!
シャーマンって最初はスゴイと思ったけど!そんなのただのズルじゃないか―――っ」

「あ!まん…」

泣きながらその場を走って離れるまん太を、葉はちょっと引き止めようとしていた。


『…ムゥ、まん太殿はまだわかってないようでござるな…
シャーマンという道がいかに大変な…』

「――いいさ、阿弥陀丸。まん太は勉強でがんばってるから許せなかったんだろう」

自分の努力で得てきた結果が、葉は霊の力を使ってあっさり手に入れられる。まん太にとってそれはちょっとした劣等感になっているのだろう。
ただ、シャーマンというものは確かに霊の力を借りて楽ができる。その強い霊能力故の代償は大きいのだ。

「……それより気になることがあるんだ。ちょっといいかな、阿弥陀丸」



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