その他

□過去拍手
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今日はクリスマス。

私の嫌いなクリスマス。




何時もなら家に閉じこもっているけど、無性に外に出たくなって。


私は今、人込みの中を歩いていた。




道は人で埋めつくされている。




何で外に出たんだろう。


そう思いながら息を吐いた時、赤が飛び込んできた。




サンタが赤い風船を持っている。


小さい子に配っていた。


風船を貰った子が幸せそうに笑っているのを見ている内に、なんとなく欲しくなった。


サンタからのプレゼントが欲しくなった。







「…貰っちゃった」



一人呟いて、ゆらゆらと揺れた。



あの時、サンタは私にも笑いかけていたような気がする。


あれは同情なのだろうか。



そう思いながら空を見上げた。


寒そうな空。



ゆらゆら、ゆらゆら



「…あ」



赤色が空に映った。


風船は、私の手からすり抜けて揺れている。



ゆらゆら、ゆらゆら



「………」



失くなってしまった。


代わりに、空は色を手に入れた。



憎たらしい空だ。



「せっかくサンタから貰ったのに…」



唯一のプレゼントを奪った空。


一人ぼっちの公園は、淋しさが強調された。




色をあげたんだから、お返しに何か頂戴。


なんて思うのは、きっとこの空気のせい。



白い息をした。



「…帰ろ」



これ以上ここに居たら、私が私じゃ無くなるような気がして。



ブランコから飛び降りる。


その時、ふっと体が浮いた。




「コレ、君の?」



頭上から聞こえてくる声が優しくて、顔を上げる。



綺麗な銀色だった。



「あ」



その手には、さっき空に奪われた風船が握られていた。



「…ありがとう」


「いーえ」



私の手に戻って来た風船。


風に吹かれて、風船と一緒に銀色が揺れる。



ゆらゆら、ゆらゆら




「……綺麗」



ぽつんと、口から零れた。



「んー?何が?」


「綺麗な銀色。とても」



サンタから貰った赤よりも、空に奪われた赤よりも。



「綺麗な銀」


「…どーも」



空は私にちゃんと色を返してくれた。


利子付きで。




ゆらゆら、ゆらゆら




「名前、教えて」



どうして外に出たくなったのか、分かった気がする。


サンタが私に笑っていた理由が、分かった気がする。




「はたけカカシだヨ。君の名前は?」


「次会えたら、教えてあげる」



ふふ、と笑って、降ろしてもらった。




「じゃあね、カカシ」


「うん、またネ」



そう言って一瞬で消えた。



幻のような気がしたけど、私の手に握られている風船は本物。



それは、ゆらゆらと。








クリスマスが少しだけ、好きになれた気がした。
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