novel
□fake
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ゴゥン、と天青の出立を知らせる鐘が響いた。
先立って行われた、本物の慧眼児を決める競い合いに敗れた天青が、今日、帰郷という形で宮中を追い出されるのだ。
勿論その競い合いは公平なものではなかったのだが、それを証明するすべもなく。
「……発ったようだ」
戸口に佇んでいた苑遊が呟く。
「そのようですね」
答える鶏冠の声に覇気はない。日頃厳しく接しているが、その分影で天青を我が子のように可愛がっていたこの男。天青が帰郷させられると知っても涙することなく業務に明け暮れていた。今も巻物の整理などしている。
「鶏冠、もうよいのではないか?」
「何がです?」
相変わらずこちらに背を向けたまま、鶏冠が答える。
「天青はもう発ちました」
戸口から背を離すと、苑遊は大胆にも広げてある巻物を跨ぎ、鶏冠に近付く。そしてその手からそっと巻物を奪い、体を片口に抱き寄せた。
「もう、我慢しなくともよい」
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