腐れ縁好きさんに10のお題

□背中を預けられるのは
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夜の傭兵隊の砦で一番活気づいているのはレオナの酒場である。
賑わっているテーブル席と違い、静かなカウンターには酒場の主とこの砦の隊長のみだ。
「全く、あんた達ときたら…。ちょっとは学習したらどうだい?」
「うるせぇ…。くそっ、フリックの奴…」
ビクトールは一人、飲んだくれていた。相手をしてやっているレオナも、こういつもいつもでは面倒臭くて仕方がない。
「で?今度は一体何やらかしたのさ?」
溜息と共にお義理で訊いてやる。
「それが分かってたら苦労しねぇんだよ」
しかめっ面で言ってビクトールはぐいっとカップを煽る。…全く心当たりがなかった。

ミューズへ定例報告をして帰ってきたのは今日だ。
昨日は到着した時刻が遅くて、市長のアナベルが用意してくれた宿屋で一泊して戻ったのが昼過ぎ。フリックの顔が見たくて馬を飛ばしてきたというのに抱きしめたその瞬間、強い力で胸を押し返された。
「おい、どうしたんだよ、フリック」
もう一度抱きしめ直そうとした腕を強引に振り解かれる。
「俺に…触るなっ!!」
キッと鋭い眼で睨み、フリックは走り去った。
執務室に閉じ籠ってしまったフリックを宥めようと扉を何度もノックしたが、一向に出てくる気配がなかった。
アナベルからの依頼も何件か入ったので仕事の話もしなければならない。
何より、昨晩は別々の床であった為、今日は朝までフリックを離す気等なかったのに。
なのに何で俺は一人でこんな所で飲んでる訳だ?
何かあったなら言って欲しいし、言ってくれなければ謝罪のしようもない。ずっと避けられている事がビクトールをイライラさせた。
「ま、何にせよ早く仲直りしなよ。あんた達がギクシャクしちまう事に対してここの奴らは敏感だからね」
「…分かってる」
そう言ってビクトールは席を立つ。
そろそろあいつも仕事を終えるだろう、と。
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