tennis
□縛れない心
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部屋は気だるい雰囲気が漂っていた。
先程まで繋がっていた身体を少し離し、互いに息を整えながらベッドに身を沈ませて。
仁王自身、これで自分が満足しているのか、と問われれば「応」とは答えられない。
どれだけ柳の心を欲しても、全てを手に入れる事ができないのを理解しているからだ。
分かっていても、それでも何も望まない事などできるはずもなかった。
初めてなのだ。
誰かの心が欲しい等と思ったのは。
他の誰を見ていてもいい、それでも欲しかった。一緒にいる時間だけは自分を見て欲しいと。
願いは聞き届けられた。
目の前にずっと願ってやまなかった彼がいる。
長い睫毛に縁取られた、普段ではあまりお目にかかれない薄茶色の瞳。薄く一度でも口付けたら離せなくなる柔らかい唇。陶器のように滑らかな、少し冷たいのが心地よい綺麗な肌。さらさらと艶のある黒髪。いつもは冷静沈着な、でも一度行為にもつれ込めば甘く高く上がる声。
全てが愛おしかった。
そっと頬に触れてみる。まだ先程の行為で赤身がかっていたそれはやはり熱を持っていた。
柳はどうした?という視線を送ってくる。
「いや・・・幸せを噛み締めとったんじゃ。参謀とこういう時間を過ごせるのが嬉しくてのぅ」
「仁王・・・」
少し申し訳なさそうな表情になった柳の瞳が揺れる。
「おっと、それ以上は聞きたくないぜよ。何も言わんといてくれ」
何かを言いかける柳の唇に人差し指で以て制した仁王。
そうしてぎゅ・・・と柳の身体を抱きしめる。
「好いとうよ・・・・・・蓮二・・・」
もう何度彼に囁いただろうか。
「・・・・・・ああ」
そして彼から何度同じ返事が返ってきただろう。
柳の手が背中に回されたのを理解した仁王は更に抱きしめる腕に力を籠めた。