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□イッツ ザ スペシャル デイ!!
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「おい・・・」

「んー?何?景ちゃん」

「髪くらい自分で拭けんだけど・・・」

「俺がやりたいねん。今日はおつかれさんやったね」

そう言ってまだ濡れている跡部の髪の一房を掬って口づけた忍足。


忍足の手によって跡部の髪は少しずつ水気を失っていく。

それはもう、これ以上ないというくらいに、優しく、優しく。


「ま、お前もな」

忍足なりの労り方だと分かっているから、頬を赤く染めながら跡部もそのままにさせていた。



「お腹空いたんちゃう?景ちゃん、全然食べれてへんかったもんな」

「つーか空きすぎて胃がおかしくなっちまってる」

「どーする?もう時間も割と遅いしなぁ。食べんとそのまま寝る?」


はい終わり、という声と共に、漸くバスタオルが髪から離れた。

跡部はふっと息をついて背後に回っていた忍足の胸にそのまま凭れかかった。

自然と忍足の腕も跡部の身体を優しく包む。


「いや、なんか腹に入れときたい。あっさりしたもん」

「お粥とかか?よっしゃ!ちょお待っときっ」


頬にちゅっ、と音を立てるキスをして忍足は鼻歌混じりにキッチンへ向かう。


そんな忍足の背中を見送り、跡部はカーペットにころんと寝転がった。



疲れた・・・。



目を軽く閉じると心地好い眠りに誘われる。

本音を言えばこのまま寝入ってしまいたかった。

しかし、あと数十分もすれば日付が変わってしまう。

どうしてもその瞬間は忍足と一緒に居たかったのだ。



眠りたくない――。



だけど。


この場所に居れるだけでほっとする。

それはきっと忍足の傍に居るから・・・。










跡部家総出で行われる、最早毎年の恒例行事のひとつと化している、跡部景吾生誕祭。


財閥の跡取りともなれば規模は最大、しかもあの跡部家だ。

ほとんどの客人は両親の招待客。親の顔に泥を塗る訳にはいかないし、これからその人物達と関係を作っていくのは自分なのだ。

入れ替わり立ち代わりで挨拶に来る全ての来訪客に柔和な笑みで応え、談笑し、礼を尽くす。

水を飲む暇すらないほどだった。

氷帝レギュラー陣もパーティーには出席していたが、跡部とは少し言葉を交わした程度でゆっくりと彼と話す時間はなかった。
どうせ明日は月曜で学校だし、誕生日は明日なのだから明日に祝えばいいのだ、と皆は結論付け、普段滅多に食べられないご馳走に舌鼓を打っていた。


そんな中、顔に笑みを張り付け客人の対応に追われている跡部を切なそうに見つめていた忍足。











今日はのんびりゆっくりさせたらんとあかんなぁ。景ちゃん、ほんまに疲れ果てとるし。

キッチンでぐつぐつしている鍋を見つめていた忍足は、ふう、と溜息をついた。


毎度の事ながら、跡部の家はやはり凄いとしか言い様がない。

まだまだ先の未来の話だとは言っても、跡部がいつかはあの中心に立つ事はどうしたって変えようのない事実。

せめて自分は彼の休める場所でありたい。
常に彼が安らげるように。

身体も神経も限界なのに、自分の部屋でこの夜も明日の夜も過ごしたい、と言ってくれた跡部の為に。




「けーちゃん、お待たせ〜。お粥できたでー・・・って、ありゃま・・・」

土鍋をテーブルに置き、忍足は跡部の隣に腰を降ろす。


規則正しい寝息を立てながら、幸せそうに眠る跡部。

そして湯気の出る鍋をちらりと見やる。

「これは明日の朝飯やな。ほんまに今日はおつかれさん・・・」


跡部に向き直った忍足は、まだ湿っている彼の柔らかい金茶の髪をまた掬う。

そしてそれと同じ色をした、綺麗で長い睫毛に口づけを落とす。


いつの間にか時計の針は12の方向を指していた。





HAPPY BIRTHDEY 景吾




ずっと愛しとるよ






ずっとずっとお前の傍で囁いてやりたい。

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