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□ライバル登場?
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先程、大阪四天宝寺中の白石蔵ノ介初のソロライブが終了したところである。
控室には燃え尽きた感のある白石と、そんな彼を応援しに来ていたクラスメイトの忍足謙也が今日のステージについて語っていた。
ガチャ・・・。
「邪魔するでー。白石、おつかれさーん」
Tシャツを脱いで上半身の汗をタオルで拭っていた白石が声の方を向いた。
ドアの向こうから現れたのは、氷帝学園の天才忍足侑士と、帝王の跡部景吾。
その姿を認めて、傍のテーブルに頬をついてだらしなく座っていた忍足謙也も弾かれたように立ち上がった。
「侑士!それに跡部!」
「なんや、謙也もおったんか」
部屋に入ってきた時より明らかに下がった声を発した忍足に、その従兄弟である男もむっとなる。
「おったら悪いんか!コラ」
「まあまあ・・・。ありがとうな、二人とも。来てくれただけで嬉しいわ」
あわや喧嘩になりそうになった所に本日の主役であった白石が止めに入った。
「テメェはほんと大人気ねぇな、変態メガネ」
背中にげし、とキックをかました跡部に忍足は非難の声を上げる。
「ひどっ!けえちゃんひどいで!大体今変態は関係ないやん!」
「うるせぇ!どけよバカ!」
涙目の忍足を放って跡部が笑顔で白石に向き直った。
「今日は招待感謝するぜ。いいステージだった」
「おおきに。跡部もありがとうな、えらいでっかい薔薇の花用意してもろて」
「ふっ・・・礼には及ばねぇよ。それにお前はそれに見合うくらいのパフォーマンスをしたんだぜ」
二人の会話を聞いて謙也はひきつった笑いを浮かべた。
跡部から贈られた花は大袈裟ではない程の量で、部屋一つが埋まるくらいだったのである。
運び込むのも大変だったが、出すのもこれまた大変な作業だろう。
別に自分がする訳でもないのでどうという事もないのだが。
「一応、謙也にも礼言わんとあかんな。チケット送ってきてくれたんはお前やし」
「いちいちムカつく物言いするやっちゃな・・・。まあ俺はただポスト入れただけやけどな」
忍足の言葉に肩を竦めて答えた謙也は、床に置きっぱなしになっていたスポーツバッグをごそごそと探る。
そして一枚のTシャツを取り出し、白石に向かって放り投げた。
「お前そろそろ何か着た方がええで。風邪ひいてまうわ」
「サンキュ、謙也」
しかし白石は受け取ったTシャツを手に持ったまま一向に着ようとはしない。
「着ないのか?」
Tシャツを目で指しながら跡部が白石に訊ねる。
白石は未だ上半身裸のままで頬をぽりぽりと掻いた。
「ああ、うん・・・こんなチャンスも滅多にないんやし、出来る限りアピールしときたいな思て」
「?何をだよ?」
「いや跡部に俺を」
一同沈黙。
「・・・はあ?」
跡部が眉を潜めたと同時に、忍足が白石から跡部の身体を強引に引き離す。
「こら白石!お前どういうつもりやねん!」
後ろから抱き込むように跡部を抱きしめながら忍足は声を荒げた。
「どういうつもりも何も、そのままの意味や」
焦る忍足とは対照的に余裕の笑みの白石は、跡部に向かうと同時にその表情を真剣なものに変える。
「跡部が誰かを選ぶっちゅう権利は跡部自身にある。長い目で俺の事も考えてほしい」
「ちょ、おま・・・!」
「えっ!?いや、そのっ・・・」
「あーあ、やってしもた・・・」
三者三様の反応で白石の告白を受け止めた三人。
「・・・言っとくけどな、景ちゃんを誰にも渡すつもりはないで。お前でもな、白石。行くで、景ちゃん!」
「え!?うおっ、ちょ・・・忍足!」
忍足は怒りを露にしながら跡部を引き摺って控室から出て行った。
「お前・・・どないするつもりやねん」
ドアが閉まってから呆れた声を投げかけてくる謙也に、白石はふう・・・と溜息をついた。
「遅かれ早かれ言おうとは思っとったんや」
「せやけど侑士と跡部が別れられるとは思えんで」
普段、二人のやり取りを忍足から聞いている謙也だからこその重みのある言葉だった。
「分かっとる。それでも言わずにはおれんかってん・・・!」
拳を握りしめ、一人の世界に入ってしまった上半身裸の白石に、どうでもええけど・・・と謙也が口を開いた。
「はよ着い。俺にアピられても困るわ」
「景ちゃん!あいつには気つけんねんで!」
「分かった!分かったから手ぇ離せ!痛いんだよ!」
控室を出てからずっと、ぐいぐいと跡部の手を引っ張りながら歩いていた忍足はようやく冷静になり、跡部を解放した。
「す、すまんちょお頭に血上ってもうて・・・。大丈夫?景ちゃん」
先程までの怒った態度から一変。おろおろと自分の心配をする忍足に溜息が出てしまう跡部。
ここはこいつに分からせるしかねぇか。
頬を赤らめながらも必死に伝えようとする。
「俺だって・・・・・・・・・」
「え?何?景ちゃん」
段々と声が小さくなっていく跡部を覗きこむ忍足。
「だからっ・・・!お前に手放されるつもりなんてねぇんだよ!」
「けえちゃん・・・!!」
感動した忍足は今自分達のいる場所が通路であるにも関わらず、跡部の身体を抱きしめた。
「ここをどこだと思ってんだよ!アホ眼鏡!!」
「うぐっ・・・」
そして左頬に強烈な鉄拳を食らうのであった。