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□俺様の美声に酔いな!
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「おい忍足、次はこの曲だ」

歌の間奏中に跡部がそう言って渡してきたプレイヤーの表示されている歌手名と曲名を見て、忍足はデンモクをちょんちょんとタッチしていく。

「けぇちゃん・・・俺いつになったら歌えんの?」

「あぁ?今日は俺様のリサイタルだぜ。テメェの出番なんかねぇよ」

「えぇ〜!!」

「俺様の美声を一人で聴けてんだぞ。もっと嬉しそうにしやがれ」

「いやいや、そりゃ嬉しいけどやな・・・」

「なら文句ねぇだろ。俺様の美声に酔いな!」

もう十分過ぎるほど酔うてんねんけど・・・という忍足の呟きは跡部の美声に掻き消えた。

跡部の次の曲を送信し終えた忍足はソファーの背もたれにだらしなく背を預ける。


今日は日曜で部活は午前中のみ。
その後家には帰らずここに直行だった。



最近跡部はカラオケにハマっている。


以前練習試合の打ち上げで岳人がレギュラー陣を誘って訪れて以来、跡部財閥のおぼっちゃまは庶民の狭い部屋での歌い場を大層気に入ってしまったのだ。

元々クラシックを専門に聴いている、今日日のJ-POPに疎い跡部。

岳人からノリのいい流行りの曲を、宍戸からヒップホップ系の曲を、鳳からバラードをそれぞれ教わり、新しいレパートリーが増える度に氷帝レギュラーを誘っては披露していた。



「しかしギャラリーがたった一人ってのも、いまいち気持ちよくなれねぇな」

「・・・小一時間歌っといてその台詞はないんちゃう?」


本当は今日も全員で・・・と考えていた跡部だったが、皆が他の用事があるからと、結局捕まったのは跡部には如何なる時もイエスマンの忍足一人だったのだ。

「うるせ。お前一人の氷帝コール聞いてもなぁ。せっかく長時間待って入ったってのによ」


頬を膨らます跡部をははは、と渇いた笑いで返した忍足。



休日、日中のカラオケは学生達で溢れかえる。

あまりにも待たされ、イライラし遂に切れた跡部は自前のブラックカードを取り出し「この店ごと俺様が買う!!!」等と言い出し、自分と店員を大いに慌てさせた。



ただただ覚えた歌を聴かせてやりたいだけだなんて。
そういう一所懸命なところも可愛ぇな、と思えるほどに忍足の色眼鏡は曇っている。



「もうそろそろ俺の美声も聞きたなってきたやろ?」

耳元で精一杯甘い声で囁けば、跡部はぴくりと身体を反応させた。

「・・・テメェの歌声はエロいから聞きたくねぇ」

暗がりの中、目の下を染めて俯く跡部を見た忍足は、目の前の恋人のあまりの可愛いさに胸がきゅんと疼いてしまった。

と同時にいい案が閃く。



「景ちゃん・・・。あのな、庶民のカップル同士ではカラオケ来た時に必ずする事があるねん」

「なんだ?」


思った通り、いい食い付き加減だ。

内心で苦笑する。


「ちょお待っとき」

と言って、忍足はデンモクを素早く叩いて大量の曲を予約する。


「あ、おいっ!」

まだ歌い足りない跡部は忍足の行動に焦り、デンモクを奪い取ろうとした。


「ええからええから」



そして予約で全て埋めてしまい、テレビ画面から跡部に向き直った忍足は、制服のスラックスの上から彼の太股を厭らしく撫で上げた。

「なっ・・・!」

驚いて固まった跡部をそのままソファーに押し倒しながら同じ身長の身体に乗り上げる。

「テメェ・・・何考えてやがる!」


キッと鋭い瞳で睨み付けてくる恋人の唇をべろりと舐め、忍足はニヤリと笑った。


「せやから、庶民のカップルがする事教えたろうと思って」


そう言って、跡部の首筋に舌を這わせた。
この状況でされる事と言えば、流石の跡部にも一つしか思い当たらなかったのだろう。
腕を突っ張って必死で抵抗する。


「やめろ忍足!いやだっ・・・」

「大丈夫やって。この部屋一番端っこやし」

「そういう問題じゃねぇっ!大体鍵だってって、あっ・・・!」

「ほらほら。これも社会勉強やでー」

「この色魔!エロ眼鏡!!」

「ええ誉め言葉や」




「〜〜〜〜〜〜〜っ!!後で覚えてろっ・・・!」




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