TOV
□気になるあの人
1ページ/1ページ
それに気づいたのは皆と合流してすぐだった。
「ユーリ、ちょっと」
「あ?なんだよ」
先頭にいたユーリに小さく声をかければ、彼は歩むスピードを落として中にいた僕の近くまでやって来た。そのまま最後尾になるよう、僕らは減速していく。
「あ、そうそ、少年〜」
後ろにいた紫の羽織がひらりと揺れながら、僕達を追い越していった。
違和感はますます強くなる。
呼ばれたカロルの声が聞こえた。
「ちょっとぉ、レイヴン、こんな階段の所で無理な追い越ししないでよ」
「ほんとよ。そのまま躓いて自分だけ転げ落ちればいいのよ」
「ひどっ!リタっち、ひどい!俺様、ただカロルくんと一緒に歩きたかっただけなのにぃ」
「加齢臭どうにかしてから言いなさいよ、そんな事」
「・・・そこまで言わなくってもいいと思うけど・・・」
「ぐすっ・・・。やっぱり少年は優しいねぇ。おっさんと仲良く行こうね〜」
「一体、どうしたのさ?」
「まあまあ、そんな気分なのよ」
前衛のわいわいがやがやした声をひとしきり聞いた後、僕はユーリの方を見た。ユーリも僕を見ていた。
「で、なんなんだ?」
「あの、レイヴンさん、という人の事なんだけど・・・」
「おっさんがどうかしたか?」
「様子がおかしくないか?」
ふう・・・と溜息をついたユーリ。
「あのおっさんはいつだってああだけどな。うさん臭ぇ事この上ないが」
「なんだかやけに避けられてる気がするんだ」
「そりゃお前、帝国とギルドの人間なんだし、いい感情持てって方が無理なんじゃね?」
「・・・本当にそんな理由だけなんだろうか・・・」
「気になるんなら本人に直接訊けば?ま、あのおっさんがちゃんと答えるかはともかくとして、な」
「わかった、そうする事にする。ありがとう」
「随分と御執心、てか?」
「茶化すのはやめてくれ」
「へいへい」
頭を掻きながら、ユーリは前の方へ戻って行った。
直接訊く、か・・・・・・それすらも難しいような気もしたが、今は様子を見るしかない。
彼の結わえた髪の揺れを見つめながら、周囲の警戒にも気を研ぎ澄ました。
チャンスはすぐに訪れた。
歯車をソーサラーリングで撃つために、いちいち全員の歩みが止まる。
隙を見て、彼の・・・レイヴンさんの腕を掴んだ。
「おりょ?って、わわっ!!どうした?若人?」
「フレンです、レイヴンさん。少しあなたとお話したくなりまして」
「あ、フレンちゃんね。えと、話?おっさん的には何もないんだけど〜・・・」
やはりおかしい、と瞬間的に思う。
目を絶対に合わそうとはしないのだ。
「僕を避けてらっしゃいませんか」
単刀直入すぎた、とは思ったが、上手い文句も思いつかないし、何より駆け引きは苦手な性分だ。こんなだから困った時は突貫、とユーリに言われてしまうのだろうか。
「あらら。やっぱ分かっちゃうかね」
レイヴンさんはま、そりゃそうか、と一人ごちた。
「否定しないんですね」
「んー、まあ、ね。やっぱりギルドでいると、騎士団の人間、と思うとどうしても身がまえちゃうっていうかぁ。すまんね、青年に非がある訳じゃねーのは分かってるんだけど」
「はい、それだけ溝が深いというのは僕も承知しています。では騎士団の人間、としてではなく、ユーリの友人のフレン個人として、接していただく事はできませんか?」
「む、無茶言うわね、お宅・・・」
「僕もあなたをギルドのレイヴンさん、ではなく、ユーリとお知り合いの方、としてお話させていただきますし」
ちら、と漸く自分の方を見てくれたレイヴンさん。
至近距離で初めて顔を合わせた。
少し薄い黒色の髪、翡翠の瞳。この目線の位置。
あれ?と僕の脳が何かに反応する。
何だ?この既視感。
僕はこの人を知っている・・・?それとも、誰かに・・・・・・?
考え事に入った時は目が細まる、とユーリに指摘を受けた事がある。丁度、今だったのだろう。心配そうなレイヴンさんの瞳が僕の視線と絡まる。
「フレンちゃん?どったの?」
いや、あの人はこんなに声は高くない。どちらかと言えば、この人とは全てが正反対の人だ。
「・・・レイヴンさんにご兄弟はいらっしゃいますか?」
「いや、俺、一人っ子だったと思うけど?親とも小さい頃に死別してるし」
「あ・・・すみません」
「いやいや、いーけどね、別に」
「レイヴンさんと少し面影が似た方を自分は知っているものですから、ちょっと気になっただけです。変な事を訊いてすみませんでした」
「あ、そ、そーなんだ、へえ・・・。まあ、改めてよろしくね、フレンちゃん」
「ええ、よろしくお願いします」
そんな会話の後でも、レイヴンさんからのよそよそしい態度は消えない。
それがやはり気になって、彼の後ろ姿を見つめて歩く事が増える。
僕はどうしてしまったんだろうか。
好きな人に似ているから気になる?
それとも彼にすら、僕は惹かれているんだろうか。
彼はいつものように皆とふざけ合っている。
その笑顔を眩しく感じて、僕は目を伏せた。