TOV
□闘技場団体戦後
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「ったく、あいつら、全く容赦しねぇんだもんな〜」
ボロボロになったシュヴァーンは控室に入ったとたんにレイヴンの口調でぼやいた。
先程まで闘技場、団体戦に出場していたところである。
自身の隊中で最もシュヴァーンを尊敬してやまない、ルブラン達にきらきらした目で騎士服を差し出された時には眩暈もしたが、真剣に戦っている皆がどんな顔をするか興味が出てしまい、出場を受け入れてしまった。
結局完敗。
戦闘後もぜひ自分達と!!と興奮気味の部下達をスルーし、挑戦者側の控室で着替えを行う事にした。フレンやユーリ達はまだあと何試合か残っているはずだから、手早く着替えてしまえば問題ないだろう。
自分で自分の事を死んだと言っておいて、騎士団にも戻るつもりはなくて、レイヴンとして生きる事を決めたと宣言した自分がまたシュヴァーンになるなんて思ってもみなかった。
カロル達にお遊びで騎士服を着せられる事はあっても、自分はレイヴン、としての意思を貫き通していたので、結局いつものおっさん、で皆も接していたし。
でも、フレンの様子はいつもおかしかったな・・・。
なんて少し口元が緩んだ。
「ずっとお慕いしていました・・・!」
そう囁かれきつく抱きしめられて口づけられた事を思い出し、僅かに顔が熱くなった。
優しくて情熱的で真面目な騎士団長。爽やかな美形の金髪碧眼で、本当に絵本の王子様のような。
そんな14も年の離れた彼が恋人になって少し。
彼が言った「ずっと」にはシュヴァーン時代の事も入っているのだろう。
何度か騎士団内でも接した事はあった。
礼儀正く、こんな汚れた自分を敬ってくれなくてもいいのに、とよく思ったりもしていたものだが。
今日の一件、フレンはどう思っただろう。
なんて。
少し感慨に耽りすぎちまったかね・・・。早くシャワー浴びようっと。
ばんっ!!!!!
唐突に扉が開いた。
「え?えっ?な、何?」
振り返ったレイヴンはぴた、と固まる。
「シュヴァーン隊長っ!!!」
ってまだ呼ぶか、その名前!俺様はレイヴンだって何度言ったら!!
心の叫びは声にならなかった。
だってあまりにも嬉しそうな、あんな顔をされてしまったら。
「ふ、フレンちゃん!?まだ、試合中じゃ・・・!」
「次の試合からパティと交代してもらってきました!」
「いや、んな、ゲーム制無視した返答されてもね・・・」
「そんな事よりも!!シュヴァーン隊長!」
「だから!俺様はシュヴァーンじゃないって!!」
「しかし!先程ご自分でシュヴァーン、と名乗られてたじゃありませんか!」
「そっ、それはその場のノリでぇ・・・」
「戻ってきてくれて嬉しいですっ!」
がしぃ!と抱きしめられた。
はぁ・・・と、脱力していくのをレイヴンは感じた。
しかし、逆にフレンはとても嬉しそうだ。
「僕、隊長がお戻りになられて、本当に嬉しいです!!いえ、別にレイヴンさんとしてのあなたを否定している訳ではありません。どちらもあなたなのには変わりありませんし。僕はどちらのあなたも愛しています!」
そうして顎を持ち上げられ、口づけられた。
5センチ以上の身長差があるのだから仕方のない事なのだけれど、こんなキスの仕方、恥ずかしくってしかたない。仮にも35過ぎたおっさんが。
「・・・っっ・・・・・・もう・・・!シュヴァーンはもうおしまい!!だいたい、あれだけこてんぱにしておいて、よっくもその台詞が言えるわね!?」
「それはっ・・・さすがにあなたが全力で来られては、僕の方でも手を抜いたら無事では済みませんし・・・不可抗力というか、なんというか・・・・・・」
あたふたと眉を下げて言い訳するフレンは可愛らしかった。
思わずぷっ・・・とレイヴンも噴き出す。
「隊長?」
「だから。もう、レイヴンなんだってば。・・・ごめんね、こんなバカな男の事まで好きになってもらっちゃって。フレンちゃんにはやっぱり、シュヴァーンとしての俺の方がいいのかな・・・」
そう言いかけて、再度、フレンの腕に包まれた。
「・・・すみません。ちょっと舞い上がりすぎました・・・。あなたがレイヴンさんだというのなら、僕はそれでもいいんです。そんなあなたが好きですから・・・・・・でも・・・」
「でも?」
「また、お手合わせ願います。今日は本当にありがとうございました」
「・・・うん、たまにはいいかもね。またよろしく頼むわ。けど、おっさん年だし、お手柔らかにね」
「それはこちらの台詞ですよ」
くすくすと互いに笑い合う。
「シャワー、一緒に浴びましょう」
「いや、でも・・・そろそろユーリのあんちゃんたちも帰ってくるだろうし・・・・・・」
「まだ大丈夫ですよ。それに・・・・・・ね?」
「ちょ・・・、ま、まさかここでする、ってんじゃあ・・・」
「もちろん。隊長の格好のレイヴンさんとなんて、次いつできるか分かりませんし」
「ねぇ、やだって、ヤバいってば・・・!」
「愛しています・・・」
なんとなく入りづらい部屋の雰囲気をユーリはドアノブ越しに察した。
「ねぇ、ユーリ、どうしたの?入らないの?」
カロルが問いかけてくる。
先程、カロルは出場者側ではなく、魔狩りの剣の側で自分達と手を合わせた。
自分達が優勝してしまったので結局はカロルもやられてしまったのだが、彼もまだ向こうの首領達とずっと一緒、というのは居心地が悪いのだろう。試合が終わるやいなや、こちらとすぐに合流したのだ。
「なんか、今開けちゃいけない気がすんだよなぁ・・・」
ぽりぽりと頭を掻いて言葉を濁すユーリ。
おっさんとの試合が終わって後を追うようにフレンも退場した。状況から察するに・・・・・・。
「・・・こりゃ絶対ヤってんだろ・・・・・・」
「え?何をやってるの?」
「いや、先生は知らなくてもいい事だ」
「クゥーン・・・」
ラピードもすり寄ってきた。
「お、やっぱお前もそう思うか、ラピード」
「ガウッ!」
「もう!一体なんなのさ!」
待っていたらとうとう向かいの女性室の方の扉が開いて皆出てきてしまった。
「あら?どうしたの?控室、入らないのかしら?」
ジュディスは不思議そうに首を傾げる。
「いや、入りてぇのは山々なんだが・・・・・・」
「ユーリー!!・・・って、まだシャワーを浴びとらんのか?」
パティが出てくるやいなや、ユーリ目掛けて飛びついてくる・・・のをやめた。
「いや、そんなに汚いか?俺・・・」
「っていうか、やっぱり汗臭い、です。ユーリもカロルも」
すこし離れた所でエステルも苦笑いだ。
「ねーねー!もういいじゃない、僕達も入ろうよー!」
カロルもさすがにしびれを切らしてしまったようだ。
しかし、今入る訳には・・・・・・。
っと、その手があったか!
ある考えが閃いて、パチン、と指を鳴らしたユーリ。
「お前らの部屋、もういいだろ?俺達で使わせてくれ!!」
「・・・ファイヤーボォールッッッ!!!!!!!」
そして至近距離でリタの術技が炸裂した。
「え・・・?何っ・・・?なんか外で音しなかった?」
「いえ・・・何にも聞こえませんでしたよ。そんな事より・・・集中してください・・・・・・」
「あ、ちょ・・・やぁっ・・・・・・フレンちゃ・・・」
そして心の中で謝るフレンであった。
ごめん、ユーリ。