腐れ縁好きさんに10のお題

□背中を預けられるのは
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「…なんの用だ」
ドアが閉まるのを待ってから、フリックはベッドの脇に腰掛けた。
その態度や言葉でまだ壁があるのをひしひしと感じつつ、ビクトールは椅子をベッドの方へ向けて座る。
「一体何怒ってんだよ、フリック。俺なんかしたか?全然見当つかなくてよ」
ここで笑って話しては更にフリックの熱が上がりそうだ。
ビクトールは真っ直ぐ目を見ながら尋ねた。
「…………別に」
「んな訳ないだろ。言ってくれ。じゃなきゃ、謝る事も出来やしねぇ」
そっぽをむいてしまったフリックに頼む、と少しだけ頭を下げる。
「…………お前、昨日一体どこに泊まったんだ?」
低い声でぼそりと呟くフリック。
「え?あー…アナベルの奴が宿を用意してくれたから、お言葉に甘えさせてもらったんだが……」
がしがしと頭の後ろを掻きながら答えるビクトール。
それが何か?まさか外泊した事が……?
「違う!!そんな事で怒る訳ないだろ!」
ビクトールの考えを読んだように声を上げるフリック。
「やっぱ怒ってんじゃねぇか。なんだよ、言ってくれよ」
フリックの肩に手をかけようとした瞬間、バシッとその手が振り払われた。
「触るなっ!」
「…フリック!」
無理矢理にでも掻き抱こうとしたビクトールだが、いつものようにいかない。
フリックが本気になればどうとでもビクトールを拒めるのだ。
仮にもその渾名が遠くまで及んでいるくらいの実力の持ち主だ。青雷の由来は伊達ではない。
一頻り揉み合った後、呆然と立ち竦むビクトールが目にしたフリックの悲しい表情。
はっとする。
なんでそんな顔をするんだ。
強い拒絶。まるで昔のように。
「…もう、お前と話す事はない。出てってくれないか」
くるりと後ろを向き怖いくらいに静かな声で。
そう言われてしまってはビクトールも従うしかない。
…しかし、俺の気のせいなんだろうか。フリックの肩が震えてるように見えるのは……。
「わかった…」
今日はこれ以上無理だと思いビクトールは渋々退室する事を決めた。
部屋に入れてもらえて、話ができただけでもまだマシだ。そう思う事でドアに足を向けた。
「暖かくして寝ろよ。…また明日な、フリック」
「………………」
返事は返ってこなかった。
まぁ、期待しちゃいなかったが…。
自嘲気味に笑ってドアを閉める。
閉まったドアに凭れ掛かりながら、ビクトールは項垂れた。
その表情は酷く悲しいものだった。
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