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□秋月夜話
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それは。
月の綺麗な晩の事です。



その神社は、山と山とに囲まれたその小さな街の、登山道へと続く道の入り口にありました。

 
『御玉(みたま)神社』――地元の人は親しみを込めて『おたまさん』と呼んでいましたが――の名で呼ばれるその社は、その昔この土地を悪霊から守ったとされる猫を護神体として奉っていました。
その所為でしょうか、清掃の行き届いた境内の至所で、三毛猫や茶トラ、黒トラ等、毛並みも大きさも様々な猫達が寛ぐ姿が見られました。

その中の一匹――どうやらボス猫でしょうか――は金色の毛並みを持ち、他の同類よりもしっかりとした体格で悠々と構えていました。大きくふわふわなその尻尾をパタンパタンと振れば、退屈だったのかオレンジの毛並みと蜂蜜色の瞳を持った子猫がそれに飛びついて来ました。

猫じゃらしにじゃれるかの様に、揺れる金の塊を子猫はしばらく追いかけていましたが、やがて遊び疲れたのでしょう。胸元へと潜り込み、寄り添って眠る子猫の甘える様子に、翡翆色の瞳を細めながら子猫の毛繕いをしている金色の猫を良く見掛けたものでした。


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