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□In your sweet dreams〜貴方の側で〜
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心地良い、ただ、そう思った。
“……ぁ…れ?…”
何気なく身じろぐと、自身のそれより高い体温が頬に触れて来た。
“…何か…暖っかいス…ねぇ…”
コレは何だろう。
“夜一サン…な訳無いっスよねぇ…”
ぼんやりした意識の中で、浦原は脳裏に浮かんだ考えを追い払う。
もし夜一で有るなら、このような場合、思い切り猫キックを食らわせて来るだろう。
けれども今浦原が触れている“モノ”は、暖かくて優しくて。
穏やかな気配が浦原をやんわりと包んでいた。
“…気持ち…良いっス…ねぇ”
夢見心地のままぼんやりと、浦原はその感覚に従って傍らに在る“心地良いモノ”へと身を委ねる。
甘える様に縋りつくと、頭上から微かな笑い声が漏れ聞こえて来た。続いて優しく髪が撫でられ、額にはそっと柔らかく暖かいモノが触れて行く。
頬と目元にも感じたそれらが遠ざかるのを寂しく思いながら、浦原は不意に自分が布団の上に寝かせられて居る事に気付いた。
万年床で薄っぺらくなっていたとは言え、一応布団としての機能をまだ果たしている其れは此処最近ご無沙汰だった物だ。確か作業の邪魔だからと、部屋の隅に丸めて片した覚えが有るのだが、それが何故。
――一週間程前から浦原は護廷からの正式な依頼で、虚圏に関するデータ解析を行っていた。
その内容は当初思っていた物より少々手間の掛かる案件では有ったが、とは言え尸魂界から与えられた期間――一ヶ月までは掛からず、半分の二週間も有れば済むだろうと浦原は踏んでいたのだがここで一つ問題が起きた。
一護と過ごす時間が減少、いや、取れなくなってしまったのだ。
正確に言えば、『浦原の仕事を邪魔したくない』と考えた一護が、浦原商店への立ち寄りを自粛してしまったのだ。
その事を告げられた浦原が、衝撃の余り固まっている内に一護は去り――テッサイ以下従業員面々が遠巻きに見つめる中、暫くしてから我に返った浦原が、それこそ寝食を忘れて作業に取り掛かったのは言うまでも無いだろう。
一分一秒でも早く仕事を終わらせるっそれでもって一護サンといちゃいちゃするんスよっ!!
その信念(執念?)の下浦原は徹夜に徹夜を重ね、今朝方ようやくまとめたデータを尸魂界へ転送。
そして同時に一護へも、『お待たせしました〜。仕事は終わりましたから、何時でもドーゾvv』メールを送ったのだ。
一護から直ぐに届いた『帰りに必ず寄るから』との返信に、うきうきしながら浦原は散らかしっ放しの部屋を片付け始めて――
“……片してて…どうしたんでしたっけ?アタシ…”
その辺りの記憶がどうにも曖昧だった。
“え〜と…”
確か…あちこちに広げていた書籍を束ねて、布団はどうせ直ぐに使うからと隅に出したままにして、それから少し腹ごしらえをしたのまでは覚えている。
その後はテッサイに任せたままだった、店の品出し状況を確認していた筈だ。そして丁度一区切り着いた所で、そろそろ一護が帰って来る時刻となったのだった。
喜び勇んで自室に戻り、近づく一護の霊圧を心待ちにしていた――筈。
“……そうだ。アタシ…確か部屋で待っていて、ちょっとだけ眼が疲れたなーって――”
そこで軽く目を瞑り、ほんの少しだけ肩の力を抜いて――抜いてそれから。
以降の記憶が浦原には無かった。
“……え、い、一護サン…?…。……って、一護サンは何処…っ!?”
恐ろしい事に『一護と逢った』記憶さえ、無い。
そんな、莫迦な。
ぼんやりとしていた意識は、其処で急速に目覚めて行く事となった。
寄りにも寄って、最愛の一護と逢った事(や恐らく過ごしたであろう濃密な時間)を何も覚えていない等、浦原には有り得ない事だ。
そもそも自分は今、何をやっているのだろう。
どうして、また何時から布団の上に居るのだ?
そしてこの『心地良いモノ』は一体…何だ?
脳裏を渦巻く疑問とは裏腹に、相変わらず浦原を取り巻く雰囲気は柔らかい。そっと触れては離れて行く温もりは、余りに心地良くて。
このままずっと、この温もりに浸っていたい想いを無理矢理伏せて、浦原は己の疑問を解消すべくゆっくりと。
瞳を、開いた。