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□Restore the color
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――消えて行く。

何の前触れも無く、あの鮮やかな色が消されて行く。
呼びなれた名を、口にする間も与えられず。
それと気付かぬまま、奪われて行く。



*    *   *



――一瞬感じた奇妙な感覚。
『何か』が脳裏を掠め、けれども確かめる前に『ソレ』は消えて行ってしまう。
何だろう、気の所為…にしては何かが引っ掛かる。研究用に開いていた書物をしまい、念の為辺り一帯を探ってみるものの、結界や鬼道の類は感じられない。
その代わり感じたのは、垂れ流し放題の大きな霊圧。
確実にこちらへと向かって来ているソレに、『今までこの霊圧の存在に気付いていなかった』自分自身に妙な違和感を感じる。
そして、それと同時にアタシに齎された『ある情報』。
店の者達から伝えられた内容を更に確かめるべく、アタシはその情報を齎した人物と逢う為に自室から居間へと足を運んだのだが――もっと不可解な出来事が、アタシを迎える事となった。



「――あのぉ、貴方どちら様でしょう?」



――目の前で卓袱台を挟んで座っている子供は、名前を『黒崎一護』と言った。
本当に地毛かと疑う様な鮮やかなオレンジ色の髪を持つこの子供は、アタシが居間に入って直ぐに店先へと姿を現した。出迎えたテッサイに開口一番、
『夜分に済みません、テッサイさんっ!浦原さんはっっ!?』
と告げたのだが、当のテッサイにも、勿論ジン太も雨もこの子供に覚えが無かった。
アタシを呼ぶべきかどうか戸惑っているテッサイに「構いませんよ」と声を掛け、子供を居間へと案内したまでは良いけれど(…何故か子供の方は上がり慣れているかの様で、さっさと奥まで進んで来て)。


「急に済まねぇ、浦原さん。そのっ、妙な事が起きて。ちょっと前なんだけど、俺ルキアの――」

座るや否やお茶を出す間も無く(ほら、一応お客サンですし)、子供は身を乗り出す様に話し出した。それに軽く手を上げて

「――その前に一つ良いっスか。貴方…どちら様でしょう?」

もっともな質問をする。
ウチを知っている所から見ると死神関係者なのだろうが――実際霊絡は『赤』、死神である事を証明している――この子供、どう見ても義骸では無く生身の躯だ。見た目通りの年齢――恐らく高校生ぐらいだろう。こんな事例今まで聞いた事が無い。
人間でありながら『死神』だなんて。

「…浦原さん?何、言って――」
「言葉通りですよ」

アタシも含めウチの者が誰も子供に関して――その『ルキアサン』とやらに対しても――覚えが無いと告げると、子供は驚愕に目を開いたまま絶句した。

「……嘘…、だろ…」

暫くして小さく呟かれた言葉は微かに語尾が震えていた。酷く青ざめた表情は見ているこちらでさえ――例え“見知らぬ他人”でも――痛々しい程だ。それでも、

「なあっっ!本当に俺の事覚えて無いのかっ!?俺だって!黒崎一護だっ!!ルキアだって此処のお得意様で…アンタが知らない訳…っっ!」

子供はアタシの傍まで来ると、必死に、それこそ羽織を引き契らんばかりに握り締め、訴え掛ける。
その姿は真剣そのもので、とても嘘や冗談を言っている様には感じられない。

「お得意様…ですか」

年の為羽織の中から納品書を取り出して見ると、

「…ああ、確かにお名前が有りますねぇ」

パラパラっとめくった控えに記された『朽木ルキア』の宛名と、受領欄に残っていた『黒崎』のサイン。記された枚数から考えれば、確かに『死神関連のお得意様』だ。

けれども。

「――申し訳ないんスけど…本当に覚えが無いんですよ」

アタシから返せる答えは一つしか無かった。

「…そんな…」

アタシからの返答に、羽織に掛かっていた指先からは力が抜けて――子供は言葉を失ったまま、その場で深く項垂れた。
「…一護ぉ…」
此処へ来た時から子供の肩に乗っていたぬいぐるみ(改造魂魄が中に入っている様だ。ぬいぐるみにも対応が効く辺り、とても興味があるけれど)も、この状況ではどうしたら良いのか判らないのだろう。俯いたままの子供に対し、弱々しく名前を繰り返すだけだ。
廊下に陣取ってこちらの様子を伺っているテッサイ達も、この事態(この子供)にどう対処すべきか固唾を飲んでいる様で。

さて…どうしたものか。

確かにあの注文量を考えれば、アタシ(店の者)とこの子供とが全く顔を合わせた事が無いと言ったら不自然だろう。目立つ外見といい、ましてやこの強大な霊圧、アタシなら絶対興味を持ったに違いない。けれども現実問題として、アタシには全く覚えが無いのだ。

――そんな事が有り得るだろうか。

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