小ネタ
□浦原喜助と言う人物
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初対面での第一印象は、『胡散臭い』の一言に尽きるだろう。
今時珍しい作務衣に羽織り、真冬でも素足に下駄の格好。
緑と白の微妙なセンスの帽子を目深に被り、中々表情が伺えないのも怪しい感じがするし。月色…と言えば聞こえが良いが、好き勝手向いた毛先に口元の無精髭の所為で、だらしなさが大爆発だ。
自営業で店(駄菓子屋)を経営しているから、一応は『一国一城の主』にはなるんだろうけど、店に立つ姿は殆ど見ない。大概店員の誰かに店番を任せ、自分は奥の自室に籠もって好きな研究に没頭している。
そんな状況だから生活リズムも昼夜逆転している事が多く、周りの夕食が本人にとっては『朝食』みたいなものになっていたりする。
しかもそれが日常茶飯事なのだから、もうだらしないとかの問題では無いかもしれない。
頭の回転はもの凄く早い…のだろうが、物言いは飄々としていて掴み所が無く。更に本音も中々言わず、昔からの知人には『たちが悪い』と太鼓判が押される始末。見た目三十そこそこぐらいだけど、実年齢は遥かに上だったりする。
「……あの、」
けれども。
90番台の鬼道はおろか、新たな封印鬼道さえも開発し、次から次へと新型の霊具を実用化させてしまう。
おまけに現技術開発局局長よりも先に黒腔の構造を解析、三ヶ月は掛かる仕事を僅か一月でこなしてしまうし、更に街一つを護るべく巨大な転柱結界まで造りあげてしまう実力の持ち主だ。
その集中力と技術力の高さは、やはり褒めて然るべきなんだろう。あの藍染すら自分を凌ぐ頭脳の持ち主として認めていたぐらいだし。追放された後ですら、護廷の総隊長から色々と頼み事(依頼)をされるぐらいなんだしなぁ。
「…あ、あのぉ……い、一護サン……」
それに。
何も分からなかった俺に、闘う事への気構えを教えてくれた。俺にとっては『師匠』と呼んでも良い人物だ。紅姫を構えて対峙した時の気迫は…今思い返しても背筋が冷たくなる程で。
おまけに何だかんだ言って、俺の頼み事をいつも聞いてくれた。
俺の家族の事も陰ながら見守っていてくれた。
…俺の事を、助けに来てくれた事も度々有った。
「…一護サ〜ン…っ」
…それに。
「………一護、サン………」
……その。
確かに最初は『胡散臭い』って思ったけれども、今は…。
「………一護サン」
和装も悪くないなって思うし、煙管を片手に縁側で寛ぐ姿も様になっていて、…その、見惚れるって言うか。
こうやって俺を包み込む、確かな腕の温もりが。
微かに漂う、嗅ぎなれた煙管の香りが。
「……一護サ〜ン、どうか…しましたか?…アタシは嬉しいっスけど」
俺を見つめる、優しい輝きを放つ翡翠の瞳も。
優しく触れる唇の感触も。
髪を梳いて行く指先の動き。
耳に響く、少し低い声音。
「――…大好きっスよ…一護サン…――」
それら全てが、今はただ…堪らなく大切で。
こうして触れ合っていると、とても嬉しくて。心地良くて。
「………俺、も」
ただ『浦原喜助』と言う存在が。
「浦原さんが……好き、だからな」
誰よりも大切で、……一緒に居ると…幸せだなって、今はそう想うんだ――…
「……有難うございます…一護サン――…」
「っ!って、だからってっっ!ひ、…昼間っから何する気だよっ!?」
「え?何って…勿論愛し合う恋人同士の『ナニ』を……っい、痛っっ!!酷い一護サンっ!何も引っ叩かなくてもぉ〜っ」
「莫迦かアンタは!?ちょ…ちょっとは常識ってモンを考えろぉ!!」
「常識?そんなモノ…第一こんなに可愛いくアタシに『ぎゅ〜』してる一護サンを前にしたら、もう常識なんて関係ないっスよ〜v」
「ギュ…『ギュ〜』って!いやった、確かにくっ付いてるけどっ!!だけどなぁ!……って……っん…んん〜っ!!……や、浦、原さ……っ………ん……」
「――やっぱり一護サンは…可愛いっスねぇ。……大好き――」
「………ば、…莫、迦………」
――あぁ、全く。
胡散臭くて飄々として、強引で自分勝手でスケベ…で、無精者の癖に変な所がマメで、変にヘタレな所が有って。
でも決める時はきちんと決める。時に凛々しく、時に誰よりも頼りになる。
元護廷十三隊・十二番隊隊長兼技術開発局創立者。そして初代局長。
そして今は駄菓子屋『浦原商店』店長兼…俺の…『恋人』。
それが『浦原喜助』と言う人物。