拍手部屋

□月色誘惑猫
1ページ/1ページ

でろーん
ぱふっ…ぱふんぱふん

視界の隅を掠める淡い金色。
ベッドに腰掛けて雑誌を読む俺の傍らに寝転んで、長くてふさふさな立派な尻尾を意味も無く振っている。その度に羽布団が微かな音を立てて。
それでも俺が『我関さず』の態度でいると、尻尾を振るのを止めて布団の上でごろんごろんし始める。
そうして。
ふかふかなお腹をどーんと見せたままで動きを止めて。

『ほ〜ら一護サン、どうっスかぁ〜?ふかふかっスよ〜?』

と言わんばかりに俺の方を見つめて来る。そのくせ自分からは決して俺の傍に寄って来ない。
ついこの間は、俺が課題に取り組んでるのを分かっていて、わざと何度もすりすりして来たのにっ。

「うにゃあ〜ぉ?(一護サン〜?)」

うっ、今度は上半身(…って言うのか?)を軽く捻り、前足をちょんと横に投げ出して。
黒に近い焦げ茶の肉球を、これまたワザとらしく俺に見せ付ける。
ちょんちょんっ。
二、三度手の先を曲げて、まるで招き猫の様な愛らしいポーズだ。
…っ…う、ま、負けるもんか…っ思わず手を伸ばしそうになるのを、必死で押さえる。
雑誌の中身に集中するんだっえ、えーと、この服良いよな、うん。こっちのシルバーアクセサリーも――

「……みぃやぁ…にゃぁ?(モフっても…良いっスよ…?)」

するとそのしなやかな躯を再び一回ごろんと捻り、またもやこれでもかとばかりにその淡い金色の、…もふもふなお腹を見せ付けて。思いっきり猫被った声音で俺を誘って来た。

「……みゃぁあ?」

…っ……っっ!…ち、畜生ぉぉっ
何でそんな可愛いポーズするんだよぉぉっ駄目だ、俺っ誘惑に乗っちゃ駄目だっっ!
ああでも、でも、…やっぱり、やっぱり我慢出来ないだろぉ!!

無言で雑誌を閉じるや否や、俺は喜助のふかふかなお腹に手を伸ばした。指先に感じるふんわり感。それから今度は掌全体で、その柔らかさを実感する。
喜助は心地良さげにその翡翠色の瞳を細め、俺の手が撫でるがままになっていた。
ごろごろと喉を鳴らして、時折ぱたんと尻尾を振るう。その尻尾も優しく撫でつつ、俺はゆっくりと喜助のお腹に顔を埋めた。


………ふかふか、だぁ……。


ふんわりと薫るお陽様の香りは、喜助が昼間ずっと外へ出掛けていた証。
家の連中は猫の散歩だと思ってるけど、実際は俺を護る為に町のあちこちを巡回しては、おかしな気配が無いか確かめているのだ。
他にも喜助は、町内の幾つかの地域を基点にして結界を張っていて、それらの状態維持にも努めているのだ。
俺もその事を教えられてから少し意識して歩いてみたけど――俺が良く使う道なんだけど――確かに暖かな、柔らかい感覚に包まれてさ。

そうまるで、この暖かなモフモフに触れている時のような。

背中の毛より幾らか色素の薄めのお腹の毛は、本当に柔らかくてふわふわで。頬に触れるソレが気持ち良くて、自然と俺は微笑ってしまう。


「……本当に……、ふわふわなんだよなぁ…――」


思わず声を出すと、その口の動きがくすぐったかったのか喜助は僅かに身を捩った。何だかそれが面白くて、俺は喜助のしなやかな躯を抱え込んで更に

「何だよ〜動くなよ。モフって良いんだろ?」

と、しゃべりながらそのお腹をモフり続けた。あ〜猫って本当、柔らかくて暖かいよな…――


「―― 一護サンだって暖かいっスよねぇ。しなやかで、柔らかくて」


声と同時に触れていた毛並みは肌触りの良い衣へと代わり。
抱き締めていた筈の俺は、逆にすっぽりとその腕の中に抱き込まれていた。

「…喜助…もっとモフらせろよ」
「ん〜〜そのつもりだったんスけどぉ、でもぉ、…愛する一護サンの温もりを感じたら、やっぱり触れたくなっちゃいまして」

『我慢出来ませんでした〜v』の台詞にそっと顔を上げて見れば、喜助の優しい眼差しが俺を見つめていた。そしてぎゅうっと腕に力が込められたと思った瞬間、くるりと景色が反転して。乗っかっていた筈の俺が逆に喜助に乗っかられて、背中に感じるのは柔らかい布団の感触。

「…ったく」

わざとらしく溜息を吐いてみたものの、喜助の誘いに乗ってしまった時から何となくこうなるんだろうなぁ…とは予想してたから(……終わってるな、俺///)。
俺は大して慌てずにそっと喜助の金の髪を柔らかく梳いた。
もふもふのお腹の毛とは違うけど、…それでも手触りの良いソレ。
指先で何度も何度も梳くと喜助は益々嬉しそうに微笑う。ついでにふかふかの金色の猫耳もやんわり撫でると、喜助はお返しとばかりに俺へ軽いキスを繰り返す。
先程までの――猫型の時の態度とは正反対の甘えっぷり(くっつきぶり)だよな。
でも。

「大好きですよ〜一護サンv」

ごろごろと鳴かんばかりに俺に頬擦りする喜助は、やっぱり…可愛くて(……もう完全に終わってるな、俺…///)。
ツンデレでも何でも。
猫型でも人型でも。
どちらの姿でも――俺を魅了して止まない大切な、存在。
だから。


「…仕方ねぇなぁ――」
「一護サン?」


…つい甘くなってしまっても…仕方ない、だろ?


「……ほら、モフって…良いぞ…?」


喜助を真似て、そっと告げて。それからじっと見つめ返せば。
視線の先で喜助は心得たとばかりに大きく頷くと、嬉々として俺の胸元に顔を埋めるのだった。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ