拍手部屋

□The treat the goodness is you
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締め切りには余裕が有ったんですが、筆が(と言うかキーボード打つ手が)のって来たので、このまま仕上げる事にしました。
夕食後からPCに向かったきりのアタシを心配して、一護サンが途中で様子を見に来ましたが、

「アタシは大丈夫ですから、一護サンは先に休んで下さいね?」

とその短い橙色の髪をそっと梳き、愛らしい三角のふかふかな耳を撫でて上げると、一護サンは安心したのか小さく微笑いました。
先程までしゅん、と項垂れていた耳が、今は元気にぴんと立っています。

「ゴメンね?でも早く終わればその分、ゆっくり遊べますから。…ちょっとだけ我慢して下さいね…?」

申し訳ない気持ちを口にすれば、アタシの首に腕を回して一護サンがぎゅっと抱き付いて来て。
夜だと言うのに、一護サンから漂って来るのは暖かなお陽様の香り。
風呂上りの体はやんわりと暖かくて、冷房で冷えていたアタシに、触れた箇所からその温もりがゆっくりと沁みこむ様でした。

「ううん、俺は平気だから――邪魔したく無いから、もう寝るね?」

一瞬ぎゅっと力を込めてから、名残惜しげに離れて行く一護サンに『お休みのキス』をして。
…言っときますけど、本当に軽い、『お休みのキス』っスからね?
擬音を付けたら『ちゅっ』程度の。
アタシ自身はもっと濃厚なのでも良いんスがぁ…、…ねぇ?
今それやったら、原稿さよならっになっちゃいますから、抱き締めたくてうずうずする手を必死で押さえましたよ(だって『ちゅっ』程度でも一護サン、ふにゃんって顔して、可愛いんスもん)。

出て行く一護サンの姿と(あ、尻尾もパタンパタンしてます。さ、触りたいっスよぉぉ…)そっと閉まる扉を見送ってから、アタシは気合を入れ直して画面に向かいました。



それから数時間経って。
一応ラストまで漕ぎ着けたアタシは――後で見直しますけど――ふと空腹を覚えまして。
壁に掛けた有る時計を見れば、夜中の二時過ぎでした。
一護サンと話をしたのが十一時ちょっと前ぐらいでしたから…、かれこれ三時間近く経ってますね。
もうちょっと掛かるかと思ったんですけど、この分なら徹夜はしないで済みそうなんで良かったスよ。数時間は寝れそうですし。
だって完徹しちゃうと、明日一護サンと過ごすのに拙いじゃ無いっスか。うっかり居眠りしようものなら、一護サンに心配掛けちゃいますモン。

え?一護サンを抱っこして一緒に寝てれば良いですって?

……ぅ…、そ、それも何か心惹かれますけど…。だって一護サンって猫型でも人型でも、すっごく暖かいんスよぉ。
どっちの姿でもアタシの腕の中にすっぽり納まって。胸元に触れるふかふかの耳の感触の良い事と言ったら…っ!
いやもう天国っス、アレは――等と思っていると、『ぐぅ…』と情けない音が直ぐ近くで聞こえて来る。

…何でPCに向かってるだけなのに、こんなにお腹空くんでしょうねぇ…。

まぁとにかく何か腹に入れようと、データを保存してからアタシはキッチンへと向かいました。明かりをつけて中に入り、適当に食べる物を…と思ったところで、ふとテーブルに何か置いてあるに気付きました。確か食後のお茶した後、きちんと片した筈なんですがねぇ。
疑問に思いつつ近付けば、それはお皿に盛られたお握りでした。
側には

『浦原さんへ きっとお腹空くと思ったから、お握り作りました。お味噌汁も有ります。 一護』

と書かれたメモ。



……一護サン…アタシの為に、わざわざ…。



きっとアタシが夜通し仕事をすると知って、あの後作ってくれたんスね…。
あぁもう…っ。
何で一護サンってこんなに可愛くて、いじらしい事してくれちゃうんですか…っっ
その場でメモを握り締め、感激に震える事数分。
アタシはお味噌汁を温め直すと、一護サンお手製のお握りに齧り付いた。
一個目は中身が梅でした。種を取り出した後少し叩いてあって。
二個目は焼きタラコ、そして三個目は昆布でした。ほんの少し歪な形の、でも一護サンの想いが込められたお握りはとっても美味しくて。小振りに握ってあるので、とても食べ易いんですよ。
添えられた卵焼きも甘みが程好くて、早い話―『アタシ好み』?みたいな。
嬉しいっスよねぇ…、こうゆうのって。
一口ずつ口にする度に、暖かいモノが胸の内にふんわりと重なって行く様で。
やがてお腹も心も一杯一杯満たされてから、アタシは一旦部屋に戻ると、結局PCの電源を落としました。
本当はもうちょっと手直しする予定でしたけど、そのぉ、あのぉ。

…一護サンの愛情感じたら、何かもう我慢出来ないって言いますか。

眠ってるのは判ってるんですけど、とにかく一護サンの顔が見たい、その気持ちで一杯になっちゃいまして。
なるべく静かに、音を立てない様に注意しながら寝室の扉を開けて。
ベッドを覗き込めば、人型のまま横向きで眠る一護サンの姿が有りました。
アタシのお古のTシャツをパジャマ代わりにし、枕を抱き締めた一護サンから、気持ち良さそうな寝息が聞こえて来ます。
アタシと『仲良く』してない時は(え〜…、『ただ一緒に寝てる時は』ですね)、猫の姿で寝る事も多いんですが、今日はほら、一人でしょう?
ベッドが広く感じられてイヤなんだそうで、そんな時は人型のままが多いんですよね(ちなみにアタシのお古を好んで着るのは、『アタシの匂い』がして安心するからだそうで)。
暫くそんな一護サンの様子を眺めた後、アタシはゆっくりと屈み込みそっと一護サンの前髪を掻き揚げて。

「…有難う、一護サン。お握り、凄く美味しかったですよ…――」

小さく囁くと、その額に優しく口付けました。
すると。

「……ん…にゃ…」

声と共に小さく身じろぐと、一護サンがうっすらと目を開けて。

「……う…ら、原さ、ん……?」

もっともその琥珀色の瞳は未だ眠りから冷め切らず、とろんとした眼差しのまま。
ぼ〜とアタシの方を見つめていたかと思うと、やがてゆっくりと、伸ばされた手が甘える様にアタシの頬に触れて来て。ペタペタと触った後、そのままアタシの首に腕を回して来たんですよ。
あぁ寝惚けてるんだなぁと微笑ましく思いつつ、アタシは一護サンの好きな様にさせていたんですが次の瞬間。

ぺろんっ

口端に触れる、濡れた柔らかい感触。


「……っ!っっ……!!」
「……『お弁当…付いてた』、よ…?……」


アタシの口元に付いていたらしい米粒を、一護サンの可愛い舌先が舐め取って行き。
それで満足したのか硬直するアタシを他所に、一護サンはほにゃんと微笑んで再び眠りの中へ落ちて行きました。


……い、…一護サン…。
そんな可愛いコト、嬉しいんですけど、すっごく嬉しいんですけどぉっ

…寝惚けてやらないで下さいよぉぉ…っ!


起きてる時にしてくれたんだったら、感激の余り直ぐにその場で『ぎゅう』して『仲良く』してしまうんですが――如何せん今の一護サンは既に熟睡モード。
アタシにしがみ付いたまま、時折すりすりと頬ずりするその寝顔は安心しきっていて。

あぁ…、もう(半泣き)。

…明日起きたら一護サンには、『お弁当付いてる』は起きてる時にやって下さいとお願いしないと(でないと、アタシの理性が保ちません…)。
そう心に硬く決心すると、アタシは一護サンの躯に腕を回して。

――本当、一護サンは可愛くていじらしくて。……堪らないっスよ――

胸元から聞こえて来る可愛らしい寝息をBGMに、嬉しさと愛しさと切なさと、複雑な想いを抱えたままアタシも瞳を閉じました。
 

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