拍手部屋

□SWEET HOME LOVEBERRY
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それはある晴れた日の午後の事じゃ。
まぁ大した用事は無かったのじゃが、ここの処すっかり(テッサイの手作りおやつに)ご無沙汰していたからのぅ、何ともなしに喜助の所へ立ち寄ってみたのじゃ。
あ奴の事だ、どうせまだ寝てるじゃろうと庭先を行けば、

「――あれ、夜一さんっっ!?」

何とそこで洗濯物を取り込んでいる一護(注:フリフリ薄ピンクエプロン付き)を見つけたのじゃ。話を聞けば昨日からテッサイ達が仕入れに出掛けておって、明日まで戻って来ないそうじゃ。
それで一護が日頃世話になっているからと手伝い――と言うか、喜助の面倒を見に来たそうじゃが、(ちなみに喜助は奥で帳簿付けだそうだ)全く一護は律義じゃな。

そんな訳で、当初の目的であったテッサイのおやつにはありつけなかった訳だが、その変わり一護が色々ともてなしてくれてなぁ。

「悪い、夜一さんっあと少しで終わるからさ」
「気にするな、儂の方こそ済まぬのぅ」

作業の手を一旦休めてミルクを用意してくれるは(勿論儂専用の器でじゃ)、茶菓子やら愛用の座布団やら持って来るわで、中々の手際の良さじゃった。
儂はそのまま縁側でのんびりしつつ、再び家事に戻った一護の様子を眺めておったのじゃが、まぁその動作の無駄の無い事。テキパキと乾いた洗濯物を畳み、迷う事無くそれぞれの箪笥へと仕舞っておった(一護、お主手慣れ過ぎでは無いかのぅ)。

それが済んだら、今度は干してあった布団を片付け始めてのぅ。
朝から良い陽が当たっておったから、取り込む度に部屋一杯にお日さまの暖かい香りがふわっと広がってなぁ。
その度に儂は勿論、一護も顔を綻ばせておった。前足でそっと押してみれば、暖かくてフワフワで実に寝心地が良さそうじゃった。

「うむ、フカフカの布団はやはり良いのぅ」
「だろう?こんな良い天気の日は布団干さなきゃ勿体ないよなぁ。大体浦原さんいつも敷きっ放しでさ――万年床って言うのかアレ。煎餅布団なモンだから堅くてさ、俺寝る度に気になってたんだよなー」

――成程のぅ、休む時は喜助と一つ布団か…。

「でも、さ…、ほらっ次の日休みだとそのっ///、ついついっ浦原さん遅くまで…さぁ…///。だから中々干せなくて」

…ほぉー、遅くまで…のぅ。
やっと干せたよ、んーふかふか、と一護は何とも満足気じゃが、自分が問題発言(惚気か?)をした事に全く気付いてないようでなぁ。

…まぁ、寝てたのか起きていてナニかをしておったのかは…、突っ込みたいのは山々じゃが、そこは止めた方が良いじゃろうなぁ。

しかしながら鼻歌交じりで次から次へと家事(今度はどうやら喜助の昼食を作っているようじゃ)に勤しむその姿は、何と言うか…、早い話、まさしく新妻としか言いようの無い状況で。

「――一護、お主これならいつ喜助に嫁いでも大丈夫じゃな」

と(本気で)言えば、

「っな、な、何言ってんだよっっ!///日本の法律じゃ同性婚は認められてねぇし、それに、そのっ18才以下だと親の承諾が必要なんだしっ」

と真っ赤になっておった。そうかそうか、法律(+一心)が許せば、お主喜助に嫁ぐのは問題無いのじゃな…。
喜助に知られた日にはあ奴の事じゃ、どんな手を使ってでも法律を変え兼ねないからなぁ。これは内緒にしておくか。
『ったく///夜一さん冗談キツいよっ』と奥から一護の愚痴が聞こえて来るが、その間も料理を作る手は休めずにいたらしくて、程なく旨そうな匂いが漂って来たわ。
メニューは五目チャーハンに中華風玉子スープ、鳥と胡瓜・木クラゲの酢の物で、テキパキと卓袱台に並べている内に、

「――あ、イラッシャイ夜一サンv」

その匂いに誘われてのそっと現れた喜助は、一応儂に挨拶はしたものの直ぐに一護の元へと駆け寄ったわ。

「美味しそうっスねぇv」
「あ、浦原さん良かった。今呼びに行こうかと思ってたんだ…で、帳簿は終わったのか?」
「大体は。今月分はこれからっスよ。でも頭使ってただけでも、お腹って空くもんスねぇ。もう倒れそうっス」
「…だからあれだけ帳簿溜め込むなって言っただろ…」

呆れた様に呟く一護に、儂も昔の事を思い出してなぁ、そっと溜息を吐いた。
喜助の奴は隊長時代、研究に関しては材料の手配だ機材の設備だと迅速に動いておった癖に、いざ書類はと言うと溜め込む事で有名でなぁ。
その分副隊長が補佐しておれば良かったのじゃが、当時の副隊長(ひよ里)に更には三席(涅じゃ)と、三人揃って書類整理に関しては、なぁ……(遠い目)。
…あれは酷かったわ。

「…まぁ少しでも処理が進んだなら良いか…。さ、一休みしてご飯にしようぜ?」
「そうっスねvv」

いそいそと卓袱台の前に座る喜助に対し、甲斐甲斐しく世話(おしぼり渡すは、お茶は入れるわ)をする一護を見ている内に、ふと、ある思いが儂の中を過ぎったのじゃ。


もし、あの当時一護が護廷におったら。


勤勉だし料理は旨いは家事も早いは、おまけに死神代行の仕事もきっちりこなして、本当に一護には儂はつくづく感心しておる(儂が嫁に貰いたい程じゃ)。
喜助もそんな一護にはすっかり夢中だし、当時一護が十二番隊におったら、本人もそうじゃが隊員達も他の隊長達も、勿論儂も多いに助かったに違いないと思えるのじゃ。


それにのぅ――。


「すっごく美味しいっスvv…ハァ〜…アタシ幸せっスよぉ…一護サンの手料理…vv」
「///…判ったから落ち着いて食べろよ。ったく、ホラご飯粒付いてるぞ」

『お弁当ついてるぞ』をして貰った喜助の、あの日頃の胡散臭さも何処へやらと言った態の、蕩けきった情けない――…けれども本当に幸せそうな微笑(えみ)も、もっと早く見られただろうからなぁ。


…あんな良い笑顔、あちら(尸魂界)では見た事無かったからのぅ――。


喜助は隊長時代はそれなりに旨くやってはおったが、やはり何処か欠けておると言うか、『何か』が足りない様な気がしておった。更には藍染の策略に拠って護廷を追われ、現世に来てからも平子達の事で色々と有ったからな。
だから今の様な。
あの幸せそうな姿を見ているとなぁ、つい、言っても詮無き事とは判っていても、考えてしまうのじゃ。

喜助と一護、二人がもしあの時一緒だったならば、と。
一護のあの真っ直ぐな気質は、どれだけ喜助の救いになったじゃろうとな。
何だかんだ言っても、喜助は儂の大事な昔馴染みじゃ。そ奴が幸せで居られるならば、其れに越した事は無いしなぁ。
もしかしたら、その後の流れも変わっておったかもしれん。

…まぁ平和になった今だからこそ、言えるのかもしれんがのぅ。

儂はそんな事を考えながら、目の前の二人の――それは幸せな食事風景を眺めて呟いた。

「…本当に良い日じゃなぁ――」




*   *   *




「あ〜美味しかったっスvvご馳走様でしたvv」
(箸を置いた喜助は隣に座っていた一護を抱き寄せると、当然の様に額に口付けしおった)。
「///っう、浦原さんっ!」
(真っ赤になって一護は離れようとするが、喜助の奴、何時の間にか腰に手を回しておった)。
「…ねぇ…、夕飯も作ってくれるの…?」
(答えてくれるまでは絶対に離さないとばかりに一護を抱き締め、喜助は今度は殊更ゆっくりと――あれは口説きモードじゃな――耳元で囁き始めたわ)。
「…///テッサイさんがいないんじゃ、俺が作るしかないだろ?…浦原さん店屋物、あまり好きじゃない、し…」
(…一護…お主もそんなに頬を染めて…俯いていても丸判りじゃぞ。おまけに真っ赤のまま呟くなんぞ、『つんでれ』で可愛い過ぎるじゃろ、其れは…)。
「…有難う、一護サン――大好きっスよ…。ね、勿論今日はお泊りっスよね?」
「……莫迦…///」
(……今度は頬に口付けか…一護も既に嫌がっておらんのぅ……と言うか、儂の事はアウトオブ眼中か……)。


――前言撤回じゃ。

『あの頃二人が一緒に居たら』なんて、とんでもないわ。
どこぞの新婚だ、お主ら。
何じゃ、あの周りを飛び交うピンクのハートは。
こんなバカップルぶりを(恐らく毎日)見せつけられておったら、藍染じゃ無くても儂が喜助を追い出しておったわ。

「…ゃ、浦…原さ…、んんっ…」
「…一護サン可愛い…」

儂の思いを他所に、喜助の奴今度は一護を膝の上に乗せてナニやらし始めたが…。

『…フカフカのあの布団は、きっと今夜一晩で『ぺったんこ』になるんじゃろうなぁ…』

(余りのバカップルぶりに)泣きたくなる程の青い空を見上げ、儂は盛大に溜息を吐いた。


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