四天ぶっく
□君には、
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クリスマスっちゅーんは、ほんまにメンドイ。っちゅーか、クリスマスやからってプレゼントするとかケーキ食うとか、何でそない金使わなあかんねん。サンタみたいにプレゼントがホイホイ出てくるわけちゃうねんで、こっちは。
せやけどそないなことも言ってられへんこの状況に、俺は深い深い溜息を吐いた。
「ひかるう!」
「その喋り方、鬱陶しいんでやめてもらえます?」
「やって、クリスマスプレゼント、光だけくれへんねんもん!」
「せやったら前以て言ってもらわな困りますわ。」
マネージャーである名無しさんさんは、ぐいぐいと俺のジャージの袖を引っ張りながら、何度もクリスマスプレゼントを強請る。せやけど、12月25日になって初めて言うってどないやねん。当たり前やけど、プレゼントなんや用意してへん。
それより気に食わへんのが他の奴らや。何で揃いも揃って、プレゼント用意しとんねん。「光だけ」っちゅーキーワードを聞く度に、妙にイライラしてしゃーない。しかもそれかて「名無しさんだけ」や。
「前以て言わなかったけど、他の皆はくれたもん!」
「っち、」
「……ひか、る?」
「皆は皆は、てウザいっすわ。他の奴らから貰えたんやからえぇやないですか。気ぃ聞かへん男ですいませんでしたね。」
冷たい言い方をしたのも、意地悪いことを言うたのも、わざとやない。気が付いたらそういう言い方しとって、言葉を詰まらせた名無しさんさんが「ひ、」と息を呑むのが分かった。最低や、俺。
物陰とかやないせいか、部員達の視線が一瞬集まるけど、チラリと目をやればすぐに逸らされた。あぁ鬱陶しい。何もかもがムカつく。
「とにかく用意してないんで。」
「っ、ひか、」
ふい、と名無しさんさんに背を向けて歩き出そうという、丁度そのタイミングで、俺の耳に聴きたくない音が入ってきた。俺のジャージを掴む名無しさんさんの手を掴んで、ゆっくりと振り返る。
俯く名無しさんさんの顔を上げさせて、ポロポロと零すそれをジャージでごしごしとふき取るけど、名無しさんさんが嗚咽を止める気配はない。
「何で泣くんすか……。」
「ひかっ、ひか、の、が、欲しかっ、や、もん、っ……」
「…………。」
ぎゅう、と名無しさんさんが手に力を込めるのが分かった。
名無しさんさん泣いとるし、皆こっち見よるし、名無しさんさん泣きやまへんし、俺が泣かせたみたいな雰囲気やし。っちゅーか、俺からのプレゼントが欲しかったんやったら、尚更初めから言えばいいもんを。
「あー、ほな来年はあげますわ。」
「やだ!ことっ、し、欲しい、ねん、も、んっ!」
「はあ、別にえぇやないっすか。皆からもろた言うてましたやん。」
「や、だっ、」
いやいやと首を振って、子供みたいに駄々をこねる名無しさんさんをどうにか宥めたいとは思うものの、光から欲しいとしか言わへんからようわからん。っちゅーか、何で俺だけ強制なんや。まるで名無しさんさんが俺を…………いやいやいや。そんなんあるわけない。普段の俺の好意なん完全無視な名無しさんさんが、まさか。
「……ほんなら、何で俺から欲しいんか答えてください。」
俺は、笑う。
「…………。」
名無しさんさんは、ビクリと肩を震わせて、うるうるした瞳を俺に向けたまま黙る。
「言われへんのやったら、プレゼントも無しっすわ。残念でしたね。」
俺は、ただ笑う。
口角を上げるだけの、あくまでもニヒルな笑み。
不意に、名無しさんさんは顔を俯かせて、ぽつりと一言。
「……好き、やから。」
聞いた途端に現れそうになったニヤケ顔を必死で堪えて、俺が返したのもたったの一言やった。
「ほな、約束通りプレゼントあげますわ。」
テニス部員の視線が集まる中、俺と名無しさんさんの間から小さなリップ音が生まれる。それと同時に真っ赤になっていく名無しさんさんの顔が目に映った。
俺が今まで名無しさんさんに対して好意向けとったん無視した割に、随分我儘なこと言うてくれるやないですか、名無しさんさん。っちゅーことで、この羞恥プレイはその罰やと思ってください。
そう言えばもっと赤くなる名無しさんさんに、俺はもう一度口付けをした。
君には、
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クリスマスだからね!
(20111225)