四天ぶっく
□コーヒー
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甘いケーキと苦いコーヒーを目の前に、あたしと彼は重く苦しい沈黙を作っていた。デートに誘ってくれたのは彼、この店を選んだのも彼。そして、この空気を作った原因も彼にある。
彼、光がズズーッとコーヒーを飲んで、カチャンと小さな音を立ててカップを置く。それからまたあたしを見てくるけど、あたしはどうしようもなく目を反らした。
光が何を言いたいのかあたしにはさっぱりわからないけど、説教をしてくるときの光と同じくらい真剣で怖かったから。
「光、」
「何や。」
だけどこの場を逃れるのは到底無理そうで、あたしはさっさとこの沈黙を破るためにと声を振り絞る。そうすれば予想よりも普通の声色で返事をしてくる光に、あたしは少しだけ安堵した。
「怒ってる?」
「は?別に怒ってへんけど。」
少し怒ったようにそういう光に説得力というものは一切感じられないけど、光がそういうのなら怒ってないのかもしれないと思って、安心。
とりあえずケーキを食べようとフォークを手に取れば、光も同じようにケーキを食べ始めた。
「名無しさん、」
「な、何…?」
「好きや。」
「…うん?」
何で、この微妙なタイミングでそんなことを言ってくるんだろう。何で、ケーキを食べながら目も合わせずにそんなことを言ってくるんだろう。何で、あたしなんだろう。
沢山の疑問があたしの頭の中を駆け巡って、かと思えば急に告白された恥ずかしさが込み上げてきて、ベタにフォークを落としたあたしを光が嘲笑うのが分かった。
「告白されただけでフォーク落とすようなアホが俺は好きや言うてんねん。」
「う、煩い!」
「答えになってへんで。」
どうして光はこんなに意地悪なんだろうかと常日頃から思ってたけど、今日ほどまでに思ったのは初めてだと思う。
光がケーキのてっぺんにのっかてる苺をくれたけど、あたしはそんなに単純じゃないんだから!
苦いコーヒーが甘く感じた瞬間
(101109.闇風光凛)