四天ぶっく

□兄だけが知る
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今朝、柄にもなく慌てた光が、机の角に足をぶつけてコーヒーカップを落として割った。思わず俺が笑ってやれば、舌打ちして俺を睨んできよる光。別に俺は悪いことしてへんのになぁ、なんて心の底で思ってたりするんやけど、そこは大人の男として抑えることにした。それに今日から久しぶりに光の彼女が泊まりに来るんや。そわそわしない方がおかしいわな。やって、俺もそわそわしとるし。光がどないなヘマするんか、今から楽しみや。



それからしばらくして、名無しさんちゃんを迎えに行った光が帰ってきたらしく、ドタドタと行儀の悪い足音と一緒に静かでおしとやかな足音が響いてきた。そして居間の扉が開いたかと思えば、光の後ろから可愛ぇ声。



「お、お邪魔します。」

「あぁ、名無しさんちゃん、久しぶりやな。」

「お久しぶりです。」

「名無しさん、あんな奴は放っておいてえぇで。」

「で、でも…」



あんな奴で悪かったな。と光に目だけで伝えて、俺は名無しさんちゃんに「大丈夫やで」と微笑む。そうすれば名無しさんちゃんはペコリと頭を下げて、光に着いて居間を出て行った。そして大人な俺はここで静かにコーヒーでも飲んで……るわけがない。

こないなこともあろうかと思って、こっそりと光の部屋に仕掛けておいた防犯用ビデオカメラを作動。それを俺は自室でゆっくり見物、っと。なかなか頭えぇなぁ、俺。


部屋に入るとすぐ、光はとりあえずベッドに座って、名無しさんちゃんを机に付いとる椅子に促す。彼女には優しいみたいで感心感心。流石俺の弟っちゅーところやな。



『学校、どうや?』

『楽しいよ。あっちでもテニス部の皆にお世話になっとるけど。』

『そか。謙也さんの従兄弟さんになんや変なことされたりしてへんか?』

『侑士先輩は…ウザいけど、他の先輩たちが助けてくれるし、大丈夫かな。』

『何かあったらすぐ連絡しぃや。』



光もカッコえぇ奴やなぁ。名無しさんちゃんと電話するたびにその台詞言っとるっちゅーことは、それくらい心配しとるっちゅーことなんやろうけど。ここまで俺に対する態度と正反対やと悲しくなってくるわ…。



『おおきに、光。』



それから2人はまったりとした空間の中で、久しぶりに会話を楽しんどって。寂しくなった俺は可愛くて綺麗な奥さんと、最近光の影響を受けたらしく憎たらしくなってきた(だけど可愛ぇ)息子の元に向かった。



「光くん、心配なん?」

「いや、昔の俺にそっくりやなぁって思ってな。」

「確かに、あんな時期もあったね。」

「おとん!光のやつ、おれとあそんでくれへんねん!」

「ほな、光の部屋に行って、名無しさん姉ちゃんに頼んでみぃや?」

「おん!」



別に意地悪したいわけとちゃうねんけど、やっぱりお客さんを独り占めされるんは気に食わへんからな。

少しして部屋から名無しさんちゃんと俺の息子を連れて出てきた光が、俺を睨んどったのは見なかったふりや。と思ったら、座っとる俺の背中を思いっきり蹴ってきよって、思わず俺は「おぅっ」とかいう情けない悲鳴をあげた。毎日部活で鍛えとるやつのけりが痛くないわけないっちゅーねん!あかん、ムカつくからやっぱり意地悪したろ。



「あんなぁ名無しさんちゃん、実は今朝、光の奴ってばそわそわしすぎてコーヒーカップー落としたんやで。可愛ぇところもあるやろ?」

「お前何さらしとんねんボケ!」

「ホンマのことなんやし、しゃーないやろ?」

「光でもそんなことするなんて、意外ですね。」

「せやけどな、カッコ付けとる割には変なところで躓いたり慌てると失敗したりするタイプやねんで。ウケるやろ!」



色んな光を知れて感動しとる名無しさんちゃんの横で、今にも犯罪を犯しそうな顔で俺を見とる光。あぁ怖い怖い。するとそこに丁度、俺の息子が膝カックンを仕掛けて。大爆笑する俺と名無しさんちゃんの目の前には、ド派手に転ぶ光と満足気な俺の息子。



「てっめぇ…」

「うわ、光がガチギレや!名無しさんちゃん、逃げるで!」

「あ、はい!」

「うわぁ!光がおこったぁ!名無しさんねぇちゃんたすけてー!」

「いいよ、おいで。」



そこで形勢逆転。名無しさんちゃん相手に怒鳴りつけたり乱暴したりは出来ひんらしく、光は盛大なため息をついてドカッとソファに座り込んだ。

流石俺の弟、勝とうが負けようが態度だけは一丁前にデカいわ。





…………………………
落ちなし!←

リクエスト(101029.闇†風)

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