四天ぶっく

□愛と恐怖とそれからあたし。
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「そんなの俺が許さないよ。」



お兄ちゃんに相談したあたしがバカだったのかもしれない。あたしの兄である幸村精市は、あたしの恋人である白石蔵ノ介を異様に敵視していることは前々からわかってたけど、だからこそあたしはクリスマスを蔵先輩と過ごしたいってお兄ちゃんに相談したのに。こうも簡単に否定されるなんて思ってなかったし、あたしのことが好きって言ってくれるお兄ちゃんなら、あたしの気持ちを察して許可してくれるのが普通なんじゃないの?
けち、と不満を漏らせばこの世のものとは思えないような顔をしたお兄ちゃんが目に写った。この表情だけは何回見ても恐ろしくて、反射的に謝るあたしってば情けない。



「ってことだから、お兄ちゃんが怖いのでクリスマスは会えません!」

「何やそれ。遠距離で中々会えへんさかい、クリスマスは久しぶりに名無しさんと会えるえぇチャンスやと思うとったんやけどなぁ。」

「す、すいません…」

「まぁ別にえぇで。それなら俺が名無しさんを奪いに行くっちゅー話になるだけや。」



笑って、それを意図も簡単なことのように言ってのけた蔵先輩がお兄ちゃんと戦おうとしてることに気づいたのは、蔵先輩との電話を切った後のことだった。

あたし的には勿論蔵先輩に勝ってほしいわけだけど、心のどこかでお兄ちゃんが勝つと確信してるあたしがいる。つまり、あたしは本能的にお兄ちゃんの勝利をわかっていながらも蔵先輩を応援してるわけで。どっちが勝っても怖い思いをする気がするのはあたしだけ?



「じゃあクリスマスは白石とじゃなくて俺と過ごすことにしてくれたんだ?」

「うん、」



“お兄ちゃんと”じゃなくて“家族と”だし、過ごすことし“した”ってよりは過ごすことに“させられた”って言う方が近いんだけど。とは言わずにあたしは頷く。
クリスマスのことは、お兄ちゃんに嘘をついた。蔵先輩が来るかもしれないだなんて死んでも言えない。そんなこと言ったら、お兄ちゃんのことだから外国に旅行しようとか突発的なこと言い出しかねないし。まぁ、お兄ちゃんはあたしが嘘をついてることくらいわかってるかもしれないけど、触らぬ神に何とかってやつ。

当日、お兄ちゃんは何故かぴったりとあたしにくっついていた。正直言うと生活しにくいし、トイレの時なんか無理矢理追い出しはしたもののドアのすぐ傍に立ってるもんだから、いくらお兄ちゃんでも恥ずかしくて死にそうだったし。一言で表すなら、最悪。



「なんでそんなにぴったりくっついて歩くの?」

「ふふっ、本能的に名無しさんの危険を感じるんだ。だから護衛だと思って。」



もはや蔵先輩を不利にするなんて、流石お兄ちゃんとでも言うべきだろうか。っていうか、あたしのいちゃいちゃクリスマスはどこへ消え去ったんだろう。クリスマスってもっと楽しいイベントじゃなかったっけ?
すると不意にチャイムがなって、お母さんの声、聞き覚えのある声、それに反応して鋭くなるお兄ちゃんの目。そのすべての情報が認識されたとき、あたしが直感的に出した結論は“やばい”ということだけ。よりにもよってあたしのすぐ隣にお兄ちゃんが居るなんて。



「“俺の”名無しさんに何か用かな?」

「あぁ、幸村くん。“俺の”名無しさんに用事なんやけど、ちょお退いてくれるか?」

「用事なら俺が代わりに受け付けるからお前がさっさと退けよ。」

「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて。」



会った途端に口喧嘩を始める蔵先輩とお兄ちゃんを制止すべく、何とか二人の間に割り込んだものの、今度は両腕を引っ張られる始末。



「離してくれへんかな、幸村くん。名無しさんが痛がっとるで。」

「お前が離せばそれで解決だろ?大体、名無しさんは痛がってないよ。」

「アホか、隠しとんねん。やっぱり自分には現実を見てもらわなあかんなぁ。名無しさん、こっち向きや。」



引っ張られてることよりも握られてるところの方が痛いんだけどなぁなんて考えていると、不意に名前を呼ばれて。それに素直に反応したあたしに、蔵先輩はただ、キスを1つ。それからお兄ちゃんと蔵先輩がまた喧嘩してたけど、呆然としていたあたしには何も理解できなかった。


愛と恐怖とそれからあたし。
(キスしちゃった。)
(嬉しい、)
(でも怖い。)



(101227)

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