四天ぶっく

□嫌い
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好きか嫌いかで言うと、多分、いや絶対に嫌いな部類に入ってると思う。それくらい、あたしは白石蔵ノ介という男が嫌いだった。容姿端麗で成績もよくてスポーツ万能、しかも面白くて優しくて完璧な彼を誰もが好いていて。それが大嫌いだった。幼馴染みのあたしからしてみれば彼は泣き虫で弱虫の、軟弱な男なのに。皆は彼に騙されてる、そう言っても信じてくれる人なんていない。



「名無しさん、部活のことなんやけど、」

「部長なんだから自分で決めや。」

「あ、あぁ、すまんな。」



1年の時はまだ蔵ノ介と仲が良くて一緒に入ったテニス部も、幾度となく辞めようかと思った。流石にそれは部員に止められたけど、蔵ノ介との協調性が無くなったあたしは練習メニューだとかは全て蔵ノ介に押し付けて。ドリンクだってタオルだって蔵ノ介の分なんかやってあげないんだから。完璧な白石蔵ノ介なら自分で全部やってよね、って最低なあたし。それに対して怒りも泣きもしない蔵ノ介も蔵ノ介だと思うけど、嫌いだからどうでもいい。



「可愛そうとか思わへんのか?」



適当に蔵ノ介をあしらったあたしに、謙也はただそう聞いてきた。それは多分、蔵ノ介が、という意味だと思う。
そんな謙也にあたしは、アホなんちゃう?と一言。可哀想とか思ってたら、こうやって適当にあしらったりなんかしないで、話し相手くらいにはなってあげてるはずだし。それが出来てないってことは、つまり、そういうこと。可哀想だなんて微塵も思わない。



「大嫌いやから、どうでもえぇねん。」

「そうか?俺には名無しさんが白石を嫌いなようには見えへんけど。寧ろ、」

「あり得へんこと言わんといてや!嫌い言うたら嫌いや!」

「そ、そうか…」



バン、と机を叩けば、動揺した謙也の顔が視界に入った。それから、何故かあたし自信も動揺してることに気づいて。それは、どういうことなんだろうか。あたしが蔵ノ介を嫌いじゃないなんて、じゃあどうしてあたしは蔵ノ介にムカついてるのか、誰でも良いから説明してほしい。
むしゃくしゃして、あたしはその日の部活をサボった。大丈夫、あの部活内であたしがしてるくらいの仕事、1年生にだって出来るはずだし、一応謙也には部活休むって伝えておいたし。



「あー暇やなぁ。」



だからと言って久しぶりに部活を休んだあたしには特にすることもなく、携帯を弄りながらベッドの上でゴロゴロダラダラと時間を潰す。
すると客が来たらしく、突然お母さんの慌ただしい足音が聞こえてきた。それと「久しぶりね」という声。嫌な予感がしてあたしの心臓は大きく脈打つけど、何故かあたしの体は動こうとしなくて。ノックが聞こえて、あたしの肩が自然と跳ねる。



「名無しさん、蔵ノ介やけど。」



何で来てるの、部活があるはずなのに、部長がサボっていいと思ってんの、て言うか何か用?
ドアを開けて息継ぎ無しでそう言うあたしに、蔵ノ介は一瞬の間をおいて、それから「幼馴染みの心配くらいしても構へんやろ?」と。心配?蔵ノ介が、あたしに?あんだけ最低な態度とってるのに、それでも心配してくれるなんてバカなんじゃないの?



「別に何もないから帰ってくれへんかな。」

「俺は話あるんやけど、聞いてくれへん?」

「…まぁ、少しだけならね。」

「名無しさん、俺んこと嫌いなん?」

「は?」

「嫌いみたいな態度とる割には悪口とか言わへんねんな。名無しさんやったら俺の恥ずかしい過去くらいいくらでも知っとるやろ?俺が言うのもなんやけど、ホンマは俺んこと好きなんちゃうかって、期待しとんねん。」



何それ有り得ない。どんだけ自意識過剰なわけ?
言い返したかったけど言い返せなかったのは、蔵ノ介の言ってることが図星だったからかもしれない。大嫌いだなんて言いながらも心の奥底では嫌いになりきれなくて、謙也の言葉に動揺したのもそのせいだと思う。完璧な白石蔵ノ介が嫌いだったわけじゃなくて、完璧だとかってちやほやされてる蔵ノ介が、どこか別次元の人間みたいになるのが怖かったんだと思う。だからあたしは嫌な態度をとって、そのせいで蔵ノ介がショックを受けることに安堵を抱いていた。



嫌いじゃないよ、本当は。


(昔っから素直やないなぁ、名無しさん。)
(消え失せろ。)



(101209)


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