四天ぶっく

□猫にまたたび
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まさか、あの財前が恋とかそういうんしてそわそわしたりするなんて思っとらんかったから、財前がマネージャーの名無しさんを好いとるって気付いた時は天地ひっくり返るんちゃうかっちゅーくらいびっくりしたで。槍が降ったら財前のせいにしたろ、とか考えてしもうたし。それでもやっぱり財前やって良い年頃の男の子やねんから、恋するんはえぇことやんな。まぁ、部活に支障出んようにはよ片付けや。

それが、部長に全てを打ち明けた時に言われた部長の台詞。槍が降るやの天地ひっくり返るやの失礼極まりない言葉やったけど、応援したるでっちゅー後押しがうざいくらい暖かくて、暑苦しくて。まぁ悪く言えば欝陶しいんやけど、そこが部長なんやと思って出来る限り受け入れる努力をしようと思う。

そんな前フリはともかく、名無しさん先輩っちゅーんはうちのマネージャーで、3年のものごっつう可愛ぇ女のことや。出会ってすぐ一目惚れして、性格知って更に惚れて、天地ひっくり返るっちゅー言葉やって失礼とは思うものの否定は出来ひんくらいべた惚れしとる。



「名無しさん先輩、」

「あ、光!ドリンク?タオル?」

「名無しさん先輩。」

「うん?」

「名無しさん先輩が欲しいんすわ。」



ゴトン、とベタに名無しさん先輩の手からこぼれ落ちたドリンクのボトルが音を立てて、名無しさん先輩の肩がビクンと跳ねた。それを見とる俺はといえば、自然と上がりそうになる口角を必死に抑えて平静を保つのでいっぱいいっぱいや。



「じょ、冗談言わんといて!」

「冗談ちゃいますけど。」

「あたしなんか貰ってどうするん?」

「どうもしませんよ。傍に居るだけで十分っすわ。」



抑えきれんかった口角が綺麗な弧を描いとるんがよくわかる。やけど名無しさん先輩がどうしたらえぇんかわからんっちゅー顔しとるから、仕方なく一歩引いて、



「ほな抱きしめさせてください」



言えば、名無しさん先輩は顔を真っ赤にして手でパタパタと顔を仰ぎだした。「あ、暑いからちょっと…」と一言付け加えて。それは名無しさん先輩が照れとるからちゃいますの?とは敢えて言わずに、俺はふーん…と名無しさん先輩を見つめる。それで更に照れとる名無しさん先輩がめっちゃ可愛ぇ。



「とりあえずドリンクください。」

「これさっき落としたやつやから…」

「別にえぇですよ。中身汚れたわけとちゃいますし。」

「ごめん、光」

「謝るくらいやったら抱きしめてくださいって。」



冗談半分でそう言えば、不意に名無しさん先輩が遠慮がちに腕を掴んで来て、俺までベタにドリンクのボトルを落としそうになったんを堪えるように持ち直した。不意打ちっちゅーんはこういうことなんやって、生まれて初めて身を持って実感した気がする。



「ははっ、光、顔真っ赤や」

「う、うっさいっすわ。名無しさん先輩やって真っ赤やのに。」

「光はあんまり顔に出さないタイプやと思ってたさかい、可愛ぇところもあるんやって驚いてもうて」

「ほな可愛ぇ可愛ぇ後輩を抱きしめてくれます?」

「ったく…次のゲーム練習で謙也に勝ったらね。」



呆れたように、でもどこか楽しそうにそう言う名無しさん先輩に、単純な俺は頷いて。
名無しさん先輩がかかっとるとなったらいつもみたいに適当な試合は出来なくて、可哀相って思えるくらいに謙也さんをこてんぱんにしてやった。部長にどやされとる謙也さんはほっぽらかして、俺は嬉々とした足取りで名無しさん先輩の元に向かう。そうすれば「約束やからね」なんて言いながら抱きしめられて、俺の心臓は崩壊寸前。





(ほな次はあの緑バンダナに勝ってくるんでキスしてください。)
(そ、それは…)
(可愛ぇ後輩の頼みやないっすか。)
(蔵と小春ちゃんと銀に勝ったら、)
(ほな約束ですよ)
(え、ほ、ほんまに!?)




(20100809)

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