四天ぶっく

□僕の幸せの為に
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多分、名無しさん先輩は鈍感やから、俺の気持ちには気付いてへんと思う。俺と名無しさん先輩はあくまでも先輩後輩で、吹奏楽部の部長である名無しさん先輩は我等がテニス部部長の白石蔵ノ介との幼馴染みってだけ。偶然話すきっかけがあって、仲良くなって、そこからは一歩も進んでない。



「名無しさん先輩遅いっすわ。」

「ごめんごめん!帰りのミーティング長引いてしもうて!」

「まぁえぇですけど。」

「ふて腐れんといて?」



善哉奢ったるさかい、と一言付け加えた名無しさん先輩は、顔の前で手を合わせて謝ってくる。別に全くもってふて腐れとるつもりはなかったんやけど、名無しさん先輩が必死でおもろいからふて腐れたっちゅーことにしようかな、って思ってしまうんが不思議や。



「ほな2杯で。」

「流石に2杯は無理や!」

「…………。」

「わ、わかった…2杯までやからね!?」

「どうもおおきにっすわ、名無しさん先輩。」



単純っちゅーか、扱いやすいっちゅーか、まるで俺を楽しませる為だけに存在しとるんちゃうかっちゅーくらい、名無しさん先輩は俺のツボを刺激する。あかん、この人めっちゃおもろい。初めて喋った時から今もずっとそう思っとる。
部長が紹介してくれた時も、ほんまに楽しい奴やで、とか部長に言われて。その言葉に否定せんと文句だけ言うとる名無しさん先輩に尚更ツボってしもうた。やからっちゅーて、別に何がおもろいとかいうわけちゃうんやけど、せやけどおもろい。



「あ、先輩ん方が白玉多い」

「…………」

「ねぇ、先輩」

「……交換したいの?」

「いや。貰いますわ。」



白玉を2、3個貰って頬張るように食べて見せれば、呆れたような、少し驚いたような顔をする名無しさん先輩。それに首を傾げて見せれば、名無しさん先輩は微笑んで、白玉をもう1個くれた。



「…えぇんすか?」

「欲しいやろ?」

「まぁ…はい」

「えぇよ。光が美味しそうに食べとるの、見てて幸せになるし。」

「光栄っすわ」



わざとらしく言葉を返す俺に、名無しさん先輩も満足そうな笑みを返してきよる。アホで、バカっぽくて、可愛ぇ。
「これって端から見たらデートに見えるんすかね?」意地悪い俺がそう言って口角上げると、顔を真っ赤にした名無しさん先輩が目に映って。ほんまに可愛ぇ、なんて俺はいつからそないなキャラになったんやろか。



「ご馳走様でした」

「え、早!」

「こんなん普通っすよ。」

「そう、なんや…」

「そこまでびっくりせんでもえぇやないですか。そない意外性ありました?」



聞けば、何故か必死な顔して謝ってきて。別に怒ってるわけちゃうのに、被害妄想激しいっちゅーか腰低いっちゅーか、自分が先輩やっちゅーことを忘れとるんちゃうかってたまに思う。それに対して込み上げてきた笑いをククッと喉の奥の方で堪えとると、何…!?言うて目を大きくした名無しさん先輩にまたしても笑みが零れた。



「いや、何も。」

「あたし笑われるようなことしとった?」

「まぁ無意識っちゅーとこも可愛ぇですけど、」

「っ!?」

「こっちの話っすわ。」



顔を真っ赤にさせた名無しさん先輩を嘲笑って置いて行くように歩き出せば、小走りで追い掛けてきた名無しさん先輩は俺の制服の裾をきゅう、と掴んで。俺は部長みたいに変態的な人間とちゃうねんけど、あかんわ。



「ちょ、まだお金払ってない…」
「名無しさん先輩トロいっすわ。そんなんもう払いましたけど。」

「へ!?」

「ほら、はよ帰りますよって。」

「だ、だってあたしが奢るいうて…」

「知りませんわ。」



名無しさん先輩の俺に対する気持ちはさっぱりわからんし、俺の気持ちが少しずつでも伝わっとるんかどうかもようわからん。やけどそれでも幸せやって思えるんは、毎日こうやって名無しさん先輩の近くに居って笑ったり照れたりする姿を見るだけで満足出来るくらい、俺が名無しさん先輩に惚れとるからやと思う。せやから少しでも本当のカップルらしいことさせてください、名無しさん先輩。





まぁ、告白するんも時間の問題ですけど。



(20100809)

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