四天ぶっく

□風邪の日の特権
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突然、だった。何かすることがあるわけじゃなかったあたしは、部屋で携帯を弄りながらごろごろしてて。そんなタイミングで鳴った家のチャイムに、少しびっくりして体を震わせる滑稽なあたし。



「誰だろ…」



とりあえず玄関に向かうけど、今は9時。郵便が来るような時間帯じゃないし、だからと行って出掛けた両親が帰ってくるのはもっと夜中の予定だったはず。でも、もしかしたら何かあって早く帰ってきたのかもしれないし。
本音を言えば、怖くないと言ったら嘘になる。そっと外に耳を傾けてみたけど、土砂降りのせいで大した音は聞こえなくて。どうしよう、そう思った時にまたチャイムがなった。



「はい、どちら様、……光!?」



宅急便ならまた明日来るだろう、とは思ったけど知ってる人だったら困る。そう思って決死の覚悟で扉を開けたのは正解だった。
深く深呼吸して扉を開けたあたしの前に立っていたのは、紛れも無く大好きな彼氏で。刹那、私の好きな香りが漂ったのと同時に支えきれない重みに押し潰されそうになって、というよりは廊下に倒れ込んで押し潰された。



「光…?」

「名無しさん…、」

「…どうしたの?」



ずぶ濡れの光は雨のせいで冷たくて、だけど体温は確実に熱くて。熱がある、なんて素人でもわかるくらいに光の体は異常。大体、まだ雨に打たれれば寒いこの時期に薄着で外に居るなんて頭がおかしいとしか言いようがない。



「……はぁ、はぁっ」

「光、」

「…ゲホッゲホッ、」



それはともかく、今は光を寝かせてあげるのが最優先だと考えたあたしは、とりあえずさっきまであたしがごろごろしてたベッドに光を寝かせて。それからびしょ濡れな体を拭いて、たまに家に泊まりに来る光が何枚か家に置いて帰った服に着替えさせる。



「光、冷たいからね?」



聞こえているのかもわからないけど、あたしは光の額に冷えピタを貼って、枕も氷枕に変えた。案外手際が良い自分に感動しながらも、ベッドの端に座って光の様子をただただ見てるあたし。辛そうな光を見てるとあたしまで辛くなるから、早く元気になってほしいのに。



「すまん…」



それから1時間くらいしてついにあたしもうとうとし始めた頃、突然光の声がしたかと思うと、うっすらと目を開けた光が私を見ていた。思わず、さっきまで握っていた手を反射的に離す。



「ううん、大丈夫だよ!…ところで、何かあったの?」

「…兄貴、と喧嘩し、た」

「………ん?」

「熱、あるん知っとって、兄貴と喧嘩、して…っゲホッゲホッ」



苦しそうに咳をする光の背中を撫でてあげれば、光が呼吸を整えようと必死に深呼吸するのがわかった。ただ、背中を撫でてあげているだけのあたしが情けなく思えてくる。それでもあたしが出来るのは、少しでも楽になるようにしてあげるだけ。



「もう喋らなくて良いよ。熱あったのに光のお兄さんと喧嘩して追い出されて、雨の中を歩いてきたって事でしょ?」



聞けば、光は何も言わずにただ頷く。光に似て鬼で悪魔な性格だって思ったことは、あくまでもあたしだけの秘密で。外面では「そっか…」なんて苦笑してみせた。



「とりあえず、何か食べたい物とかある?」



聞けば、光はただ首を小さく左右に振る。不謹慎なのは承知の上で言った「可愛い」の言葉に、光は心底嫌そうな顔。だけど可愛いものは可愛いんだから仕方がない。



「甘いものもいらない?」



うん、というように光はまた小さく頷く。こんな弱い光は滅多に見れないくて、優しく頭を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる光が愛おしい。



「すま、ん…」

「全然大丈夫!頼ってくれて嬉しいし、生意気じゃない光が超可愛いし!」

「阿呆か…、」



油断した。弱ってるから痛くないだろうと思って受けた光の拳骨が、普段と変わらぬ強さで。殴られた頭を抑えながら痛みを堪えていると、ククッと嫌味な笑い声。



「…っ!折角お世話してあげたっていうのに、笑うなんて酷い!もう知らない!」

「………」

「………」

「っ、ゲホッゲホッ…」

「……大丈夫?」



怒ったような態度で光に背を向けたにも関わらず咳をする光が心配で振り返るあたしに、光が向けた表情はまるであたしを嘲笑うかのようなもので。騙された。そう思った時にはもう遅くて、あたしの腕はしっかり光に掴まれてる。



「知っとるか?好きな奴と寝ると風邪治るんやで。」

「へ、へぇ、知らなかった…」

「ほな試してみぃひん?」


風邪の日の特


ニヤリと笑う光に嫌な予感がしたのは言うまでもなくて。次の日あたしは勿論、熱を出した。


(20100524)

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