四天ぶっく

□苦味の甘さ
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バレンタインです。それは勿論、好きな人やら友達やら家族やらにチョコレートをあげる日なわけです。が、これほどまでに来てほしくない行事なんて無いと思う。

出来上がったブツを見てあたしはそれを鼻で嘲笑う、というよりは作ったあたし自身を嘲笑った。チョコレートって何色だっけ?ホワイトチョコレートって黒くなるんだ、へぇ。っていうかチョコレートって何?



「おーい名無しさん、今爆発しなかったとや?」



すると突然台所に来た彼氏の千里は、さっきのチョコレートが爆発した音に首を傾げる。当たり前、普通なら台所で爆発音なんてするわけないし。



「し、してないしてない!」

「まぁ良か。…ん、これ何と?」

「何でもない何でもない何でもない!」



いつもはのんびりまったりしてるのに、こういうことは変に鋭いから困る。千里が手に取った黒いブツを必死に取り戻して、あたしはそれらを電子レンジの中に隠すように投げ入れた。

そんなあたしの行動を見た千里は何も言わずにあたしを見つめて、それから微笑むというよりは苦笑というものをあたしに向ける。「頑張り過ぎはいかんばい」なんて言葉を添えて。



「別に頑張ってるわけじゃないし…」

「まぁそげなら良か良か。楽しみにしとるけん、チョコレート。」

「あ、あぁ、うん」



楽しみになんかしなくていいのに、って言うか寧ろ楽しみになんかしないでほしい。溜息をついて電子レンジに放り投げたチョコレートを取り出し、ビニール袋に入れてとりあえずテーブルの下に。



「やっぱりチョコレートフォンデュにするべきだったかな…」



そんなことを呟いて見るけど、そうするにはチョコレートを買い足しに行かなきゃいけない。そんなの、この荒れ果てた台所を見る限り行ける気がしない。もしも私が留守の間に千里がこれを見たら、一巻の終わりどころかこの世に存在したことまでも消してしまいたくなる。

というよりチョコレートフォンデュにしたところで、それを上手く出来るかどうかすらわからない。チョコレートフォンデュも失敗したら?千里の目の前で爆発したら?あぁもう、貝になって貝殻に閉じこもりたい…。



「そぎゃん所でうずくまっとると躓きそうやね、俺」

「…え?ちょ、千里!何でまた台所に戻って来てるの!」

「ははっ、心配になったけん」

「で、でも…!ってそれ食べちゃダメ!」



突然現れたかと思えば、千里は隠しておいたチョコレートを口に運ぶ。それを必死に奪い返そうとするけど、何て言うか素晴らしき身長差。手を上に高く伸ばされたら、いくら私がジャンプしたとしても届くはずがない。



「どけんしていかんと?」

「まずいから…」

「ちゃんと自分で味見したとや?」

「してないけど、焦げたもん」

「ほんなら、とりあえず名無しさんも味見してみんね。」



ほれ、と口に押し込まれたチョコレートを渋々味見すれば、やっぱり苦くて咽に引っ掛かるような感覚。「やっぱりまずい」そう答えれば、仕方ないとでも言いた気な表情を向けられた。



「俺はこれで大丈夫たい。」

「………」



何が「大丈夫たい」なんだか。飲み込む時の苦い表情と苦しそうな表情を私が見逃すと思ってるの?毎年毎年、そんな無理に食べてくれなくても良いのに。まずいならそう言ってくれて構わないのに。



「大好き、ばか!」

「ん?急に告白ばされると照れるたい。」

「お腹壊しても知らないんだから。」

「そげになるわけ無かとよ。名無しさんん作った料理やけん、大丈夫っち信じとう。」



ははっ、と笑う千里は優し過ぎて。思わずぎゅーっと抱きしめれば、小さい子供みたいにいい子いい子って頭を撫でられた。自分でも食べれないような料理なのに大丈夫だなんて馬鹿みたい、だけどすごく嬉しいって思う私はもっと馬鹿みたい。






(もっと料理練習するから…!)
(楽しみばい)



(20100215)

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