四天ぶっく
□Realize
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「え?何て言った?」
「せやから、付き合ってもらえへんやろか。」
まさか、そんなの有り得へん。学校でもかなり有名なカッコイイテニス部長の蔵が、ただの幼馴染みやと思ってた私に告白してくるなんて。しかも超下から目線。
確かに幼馴染みから恋に発展するやとかそんな話はよくあるけど、やからって自分がそれに当て嵌まるなん思ってもみなかった。それで聞き返してみた結果がこれ。
「ほんまに?」
「おん。」
「……え、ほんまに?」
「何回聞くつもりや、名無しさん…」
「いやいやいや!何回も聞きたくなるっちゅーねん!」
嬉しいけど夢みたいで信じられへん。それくらいに蔵は校内のアイドル的存在っちゅーことで。その爽やかで優しくてカッコイイ笑顔を私だけに向けてもらえるなん、ほんま夢みたい。
「ちょお待ち!夢かもしれへん!」
「今更やな、」
「痛!痛い痛い痛い!何すんねん!」
「痛いっちゅーことは夢ちゃうやろ?」
不適な笑みを浮かべる蔵を見て、少し訂正。確かに蔵は優しいけど、すーっごく優しいわけではない。手加減っちゅーもんを知らんのか、こいつは。
頬を摩りながら「阿呆」と悪態つけば、阿呆ちゃうわなんて普通の返事が帰って来て。何っちゅーか、拍子抜けや。
「それにしても蔵が告ってくるなん、ほんまにびっくりしたわ。」
「そうか?ずっと名無しさんんこと好きやったんやで?名無しさんと同しようにな。」
「…え?私まだ蔵に好きやなんて言ってへんけど。」
「やけど思っとるやろ?俺のこと好きやって。」
真剣な目と、自信有り気な表情に圧倒される。それから口角上げてニヤリとするその顔は、ずるいくらいにカッコ良くて困る。
「な、何でそう思うん?」
「やって俺、エスパーやし?」
「んなわけあるかい!」
「ははっ、確かに名無しさんがずっと俺んこと好きや思っとったらえぇなーっちゅーのは、ただの俺の願望や。まぁ、反応見た限りやと、強ち間違いちゃうみたいやな?」
「っ、」
あかん、言い返す言葉が見付からへん。自己満足?ナルシスト?言い返したところで、図星やった私に逃げ道なんてもんは無くて。黙り込めば更に満足そうな蔵が目に映った。
「キス、したいんやけど」
「変態」
「そこも含めて好きなら問題無いやろ?」
「っちゅーか、キ、キスしたいとか聞かんといてや…!」
「ほな了承っちゅーことやんな?」
言うが早いか、綺麗に包帯が巻かれた左手で顎を掴まれる。それから私の表情を楽しんどるんか、ゆっくり顔を近付ける蔵。あぁ、こいつほんま質悪い。
やられっぱなしは嫌やから意を決して自分からキスしてやれば、案の定蔵は真っ赤な顔で目が点状態。そんな蔵に、やってやったと言わんばかりの顔を向けて笑ってやる。
「私からのキスはどやった?」
「あ、阿呆か…!」
「蔵がキスしたい言ったんやで?」
「せやけど、それは、その…」
形勢逆転、下剋上。不意をつかれた蔵はこんなに弱いなんて知らんかって、それを知れただけでも私は嬉しい。今の私がどや顔しとるんは、鏡見なくてもわかる。
「とにかく、蔵と付き合ってもえぇよ。」
「っ、ほんまか!」
「まぁ、ずっと好きやったっちゅーんは当たりやから。」
「おおきに!俺、名無しさんんこと愛しとるわ!」
好きって言われてからほんの数分しか経っとらんのに、もう「愛しとる」なんやな。そこまで急に飛躍出来る蔵の神経はすごいと思う。今やから言うけどそこも含めて好き、そんな私の神経はすごいどころかおかしいんやろうけど、そんなん気にせぇへん。
「おおきに!」
放課後の少し賑やかな校内に、私の声が響くのがわかった。それに合わせて蔵の笑顔が私に向けられて、私も笑顔になる。
Realize
(ところで蔵、部活は?)
(この為だけに休んだんや。)
(うわ、すごい自信あったんやな…)
(やって俺エスパーやし?)
(さっきも思ったんやけど、それおもんないわ。)
(………)
(20100131)