四天ぶっく

□ちょ、あっかーん!
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「光、疲れたー」

「俺かて疲れとるわ阿呆」

「蔵、善哉2人前よろしくー」



寒いからとオサムちゃんが粘り粘って教頭と交渉し、部室に取り付けられた念願のストーブ前。私と光は部室に2つしかない椅子を占領して、そのストーブも占領中。温暖化だとか不景気による値上がりだとか、そんなの私達には知ったこっちゃない。



「何でやねん。」

「うわ、部長優しいっすわー」

「流石私の彼氏ー」

「ほんまにお前等そっくり過ぎて妬けるわ。」

「ありがとー」



蔵が妬くのも仕方ない。私と光は幼馴染みなだけあって、小さい頃から好き嫌いや性格が似ている。自他共に認めるくらい。だから厭味ったらしく礼を言えば、蔵ノ介様は腕組みして大きな溜息。



「こほん!大体な、」

「名無しさん、お前の彼氏は口でわざわざ“こほん!”とか言う奴なんやな。」

「ごめん、私も今知ったんだよね。」

「せやからやめとけ言うたやろ。あないなおかしい人。」

「ちょっ、話聞け!お前等、先輩で部長の俺を無視するってどういう事や!っちゅーか財前おかしい人って何やねん…!」



変な風に話し出す蔵にわざとらしく背を向けて私達がひそひそ話していると、私達は蔵に首根っこ掴まれてぐるりと方向転換させられた。それから蔵が悲哀な台詞を並べていたけど、首が痛くてそれどころじゃない。



「お前の彼氏シメたいんやけど。」

「私はそれどころじゃないくらい首が痛い…」

「俺かてめっちゃ痛いわ阿呆」

「ってか蔵、いつからそんな謙也先輩みたいになったわけ?」

「謙也みたいとか言わんといてや。それが1番傷付くわ…。」



あぁあかん、蔵ノ介君ショックで立ち直れへんかも…。そう言う蔵を私達は鼻で笑ってやりながら、またも蔵に背を向ける。光は相手するのも面倒と言いた気な表情だし。



「あー寒い」

「善哉食べたいね。」

「俺は優しい優しい名無しさんの彼氏様が奢ってくれるって信じとるし。」

「そうだね!」

「くっ、メンタル攻撃か…!」



別に攻撃のつもりは無いけど、何故かテンションがおかしい今日の蔵は銃に打たれたような反応。メンタル攻撃って言ってるくせに銃攻撃の反応ってどうなんだろうか。まぁそんなことはどうでも良いけど。



「とりあえず善哉食べに行こうか?」

「せやな。」

「ね、蔵!蔵が居ないと困るんだけど…ダメ?」



私が上目遣い気味で言ってみせれば、蔵は少しカッコ付けて「仕方ないな」なんて言いながら鞄を持ち上げた。居ないと困るのはお金を持ってきてないから、なんだけど。



「あー優しい彼氏で良かった!」

「あー優しい部長で良かった。」

「お前等にいつか復讐したるわ。」

「服従?」

「復讐!」



冗談半分で聞き返せせば、服従なんかするかと言わんばかりに頭を軽く殴られた。因みに暴力変態と言ってあげると、何でやねん!変態ちゃうわ!なんて返ってきた。



「可哀相な蔵…。」

「可哀相って何やねん!」

「変態だし。」

「お前が勝手に変態扱いしただけやろ。まぁえぇから善哉食いに行くで。」

「やったー!」



なんだかんだで奢ってくれる優しい蔵に心の中で感謝しながら、私達は甘味処に向かう。途中、ふと視界に入った光の浮かれた表情に蔵が驚いていて。私はもう慣れたけど、初めて見た人はやっぱり驚くのが普通。



「すみませーん!」

「ちょ、名無しさん…!」



それから暫くして。3杯目の善哉を完食した私がお代わりを頼もうとしたら、蔵は私が挙げた手を無理矢理下げさせた。そして何も言わず、首を左右に振る。



「財前もそれで最後にするんやで。」

「部長ケチっすわ。」

「ケチちゃうわ。俺はお前等の健康を考えて」

「あ、すみません!善哉2杯追加でお願いします!」

「っ、名無しさん!」



蔵の長ったらしい健康トークを聞いてるくらいなら善哉を食べてる方が幸せな私は、思わず善哉追加。しかも2杯。



「別に、部長帰ってもえぇですよ。」

「…は?」

「知っとります?ここ、1人10杯以上食べたらタダなんすわ。」



確かに光の言う通り、ここは10杯以上食べると無料になる。10杯なんて全然余裕な私達にはすごく良いサービスで。今日はそこまで食べる予定じゃなかったから蔵が居ないと困るなんて言ったけど、居なかったら居なかったで10杯食べても構わない。が、次の一言で蔵は意見を変えざるをえなくなった。



「俺は名無しさんと仲良う帰りますんで。」


ちょ、あっかーん!


(父さんは許さん!)
(あかん、この人おかしなった)
(なんかごめん…)


(20100118)

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