四天ぶっく

□こっち見んなや!
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「ユウジは小春ちゃんと仲良しだよね。」

「まぁ、好きやからな。」



その会話の何が気に食わんかったんか、名無しさんは「そっか」とだけ言うて走って行ってもうて。もっと話したかった、っちゅー本音を隠してコートに戻る。それがほんの数分前。



「小春っ!」

「ユウ君っ!」



今はダブルスの練習っちゅー事で、俺と小春のペアが色んなパターンのダブルスに相手しとる。まぁ単純に、経験積むのも大事やっちゅー考えやろ。
やけど、ふと名無しさんに目をやれば、名無しさんは我此処に非ずって感じで。俺は試合が一区切りついたところで、休憩を理由にして名無しさんの所に向かった。



「名無しさん、」

「へ?あ、ごめん。ぼーっとしてた…」

「もうボケ始まったんか?」

「ち、ちがうし!ユウジのばーか!」



話し掛けるとビクッとした様子で俺を見る名無しさんに軽い冗談を言ってやれば、少しふて腐れた顔しながらも笑ってくれて。好きな奴を笑顔に出来るんは、すごく嬉しい。



「お前よりマシやっちゅーねん!」

「何それ、酷い!」

「小春とか白石みたいに頭ようなったら、見下すのやめたるわ!」



名無しさんが頬膨らますから顔を摘んでやると、名無しさんはぶふっと吹き出す。それに笑えば名無しさんは俺を軽く殴ってきて、たいして痛くもないけど痛いフリ。



「ユウジの意地悪ー!」

「俺が意地悪やったら財前はどないすんねん。」

「光は別!」

「何でやねん!」



ビシッと言い返すと、ナイスツッコミ!なんて言われて、ツッコミ入れたんとちゃうんやけど「おおきに」と答える。
それから少しの沈黙。それを破るように「せや、」と声を発すれば、名無しさんは俺を見て首を傾げる。



「さっきは、何やすまん。」

「え?」

「気に食わんっちゅー顔しとったで。」



唐突過ぎて意味わかっとらん名無しさんに、小春好きや言うた事やと説明すると、漸く理解した名無しさんは「あぁ、」と呟く。
さっきの事を名無しさんがどう思ったんかはわからへん。やけど確かにあの時名無しさんは、気に食わんっちゅー顔しとったんや。



「らしくないわ。」

「別に、」

「言いたいことはっきり言う奴やと思っとったんやけど、俺は。」

「言いたいこと、無いし。」



ツンとわざとらしく外方向く名無しさんに、ほんまか?とだけ聞き返せば、名無しさんはただ頷いた。それに対して俺もただ、そうか、と返す。
本音を言うと、少し、少しだけ期待しとった。俺が小春好き言うたんが気に食わん、そう名無しさんが言ってくれるのを。やけど期待とは裏腹な態度が返ってきて、がっかりや。



「せやったら、今から言うことは俺の自惚れやと思って聞き流せや。」

「…何?」

「俺が小春好き言うた時、確かにお前は気に食わんっちゅー顔しとった。違ったとしても俺にはそう見えた。」



名無しさんから期待通りの返事が来れば、俺はこないなこと言わなくて済んだのに。真剣に聞いてくれとる名無しさんを見ると顔が熱くなるから、目線は名無しさんからちょお反らす。



「俺のこと好きやから気に食わなかったんちゃうか、って思ったんやけど。」

「………」

「自惚れ、やったみたいなや。」



そう言い残してその場から立ち去ろうとしたが、それを拒む様に腕を掴まれたから目をやる。するとそこに居った名無しさんは顔を赤くしとって、可愛ぇっちゅー特権を駆使されとるみたいで悔しい。



「自惚れじゃない、と思う」

「それは、」



俺はその言葉に期待してえぇんやろか。っちゅーか、そないな言い方されたら期待せん方が無理やっちゅーねん。
言いかけた言葉には何も続けずに、俺は「文句言うなや」と言って名無しさんの返事も聞かずに唇を重ねる。



「ユウジ、」

「な、何やねん!文句言うな言うたやろ!」

「好き。」

「っ…!」



こんなん、どっちが不意打ちかもわからん。顔を反らせば、突然顔を覗き込んできた名無しさんは「照れてる?」なんて聞いてきて。さっきまで馬鹿にしとった奴に馬鹿にされるなん癪や。そんな打破しようがないこの状況で咄嗟に出てきた言葉は、更に墓穴を掘るもんやった。





(ユウジの照れ屋さん!)
(照れとらんわ阿呆!)
(もう、素直じゃないんだから!)
(っ!)



(20100111)

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