四天ぶっく

□あー…おん。
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何故、私は彼と隣の席になってしまったのだろうか。前回、前々回、そのまた前だって、彼の席はいつも私の隣。わけがわからない。



「もう嫌です。」

「ちょ、何やねんその反応!」

「嫌だ嫌だ嫌だ!蔵の隣はもう嫌だー!」



席替えがある今日という日をどれだけ待ち望んでいたことか。その結果がまた蔵の隣になってしまったなんて、たまったもんじゃない。謙也に助けの視線を送るけど、私の斜め前であり蔵の前である謙也は、必死に後ろを見まいとしている。そんな、酷い。



「また名無しさんと隣なん、めっちゃ嬉しいわ!」

「私は嬉しくない!」

「何でなん?俺は名無しさんの隣やと落ち着けるんや。んー絶頂!」

「今の台詞のどこに“んー絶頂!”の要素があったわけ!?」

「色々や!」



まぁそんな生活が続いて、今日で1週間くらい。だけど私には席に慣れた?も糞もあったもんじゃない。嫌でも慣れるわ!と言いたい、というか叫びたい。



「あー朝練疲れたわ…」

「おはよう、お疲れ」

「んー今日もえぇ匂いや…!」

「………何で?」

「おん?」



朝練が終わって教室に来る蔵に挨拶をした途端、蔵は席について私に擦り寄ってくる。良く例えるなら犬、悪く言えば変態。その行動に疑問符を浮かべれば、蔵は笑顔と疑問符で返してきた。



「その変態行動に何か意味ある?」

「絶頂を感じられるやん!」

「意味がわかりません。」

「つまり気持ちえぇっちゅー事や!」



爽やかにそう言われた。が、いくら爽やかに言われたとしても、聞き捨てならない。どん引きしたと言っても過言じゃないくらい、私は今とてつもなく彼から離れたい。



「け、け謙也、助けて…!」

「スキンシップしとるだけなんやから、助けて欲しいことなんてないやろ?」

「ぁあっ!」



“ないやろ?”のすぐ後、私は耳に息を吹き掛けられた。揚句に、こんなやらしい声まで出しちゃって。明日から不登校になりそう。



「今の声、めっちゃ絶頂やで!」

「もう最悪…」



親指をたてて“GOODサイン”を出してる蔵を軽く睨んで、私はそのまま机に突っ伏す。どうして彼が人気なのかが、私にはさっぱりわからない。確かに容姿端麗、だけどあまりにも危なすぎる。



「名無しさん、」

「………何」

「急に伏せたらびっくりするわ。具合悪なったん?」



ただ、1番気に食わないのが、そんな変態な彼が好きだってことで。こうやって蔵が心配してくれたり、普通に笑ったりする度に私の心臓はばくばくと大きな音をたてる。私はいつからおかしくなったのやら。



「全然何ともない」

「ほな良かったわ!」



あぁ、またばくばくしてる…!それから逃れる様に蔵と反対方向に顔を向ければ、突然髪に違和感。なんて思っていると不意に声が蔵の声が聞こえて。



「めっちゃさらさらやなぁ!」

「どうも」

「髪綺麗やし、シャンプーのえぇ匂いするし。ほんま好きや!」

「どうも……え?」



思わず聞き返す。好き?髪質、匂い、私、そんな類の答えを望んでいたのに、彼から返ってきたのはただのリピートだった。



「そうじゃなくて、」

「そうやなくて?」

「好き、って…」



何が?って聞きたいのに、言葉が出て来なくて、うん?と聞き返される。っていうか、もうちょっと私の聞きたい事を考え答えてくれれば良いのに。



「やっぱ良いや…」

「まぁ名無しさんがえぇんやったらえぇけど。せや、抱き着いてえぇか?」

「はぁ?」

「エネルギー補給や!んー」

「絶頂って言うなよ。」



“んー絶頂!”と言いそうな、まさにそのタイミングを遮ると、蔵は明らかに文句がありそうな顔をするから私は笑ってしまった。



「とりあえず抱き着かせてもらうでー!」

「え、ちょ、何で?」

「エネルギー補給って言ったやろ!」

「良いよなんて言ってないし…!」

「ダメとも言ってへんで?」



確かにそうだけど。蔵の言ってることも、ある意味正論だから言い返せない。そのまま黙り込めば、遠慮なく抱き着いてくる蔵に心臓がばくばくと暴れだす。すると謙也が偶然振り向いて、私達の状況に目を丸くした。



「な、何でだだだ抱き合っとんねん…!」

「抱き合ってるんじゃなくて抱き着かれてるの!」

「お前等、もしかして付き合っとるんか…?」


あー……おん。


少し何かを考えながらそう答える蔵に、謙也だけじゃなく、私も目を丸くした。寝耳に水とはこのことを言うんだろう。


(っちゅー事でよろしゅう。)
(………はい。)



(20091229)

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