比嘉ぶっく
□わんぬむん!
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平古場クンは、少しばかり独占欲が強すぎる面がある。我々のマネージャーは、平古場クンからしてみれば彼女なわけだが、常日頃から彼に振り回されている気がしてならない。そもそも、彼は時と場合を言うのをイマイチ理解していないんじゃないか。いや、理解していないのをわかっていたから、彼に時だの場所だのを求めるようなことはしてこなかった。けれど、何ていうか、流石に。
「平古場クン、ウザいという言葉を知っていますか?」
「は?うるさい、あんに。」
「まぁ、そうですね。(合ってるような、間違ってるような……。)」
今のキミがそれですよ、と、口に出したい。今すぐそう言って、それから「うりがちゃーすがや?」(それがどうかしたか?)なんて呑気なことを言っているコイツを沖縄の海に沈めてしまいたい。もしくは潜水中にコイツの足を縛って、大きな石に括り付けたい。兎に角“ウザい”ということを伝えて、この綺麗な海に沈められれば何だっていいのだ。流石に、本気でやろうとは考えないが。
そもそもの原因は彼にある。
「名無しさん!見れ!見れ!」
「はいはい、」
「ちゅらさん貝あったさぁ!」
「わー、じゅんにー。」
「名無しさん、見てねーらんやっし。」
(名無しさん、見てないだろ。)
おもしろいもの、おもしろいこと、綺麗なもの、凄いこと。何かを発見したら、名無しさんを呼び出しては見せつける。それは例え練習だろうと、彼女が仕事中だろうとお構いなし。名無しさんの飽き飽きした顔が、平古場クンには見えていないのだろうか。
しかも最近は甲斐クンまで協力するようになったらしく、最強の馬鹿タッグが出来てしまった。
「くり、名無しさんにやるんど。宝物箱んかい入れとけー。」
(これ、名無しさんにあげる。宝物箱に入れておけよ。)
「はーい。……あ、じゅんにちゅらさんやっし。」
(……あ、本当に綺麗。)
「やっぱりさっき見てなかったあんに!」
別に、彼らを微笑ましく思わないわけではない。つい最近、二人で木彫りの宝箱を作った(しかもかなり大きい)らしく、二人の思い出の品を集めているらしい。そういうところは、本当に微笑ましいのだけれど。……お父さんじゃありません。
やはり問題は時と場所。部活中だとしても、休憩時間ならわかる。百歩譲って、潜水だったり外周だったり、自主練習のような時間なら構わない。重要なのは、今、まさに試合中だということ。しかも、この俺と。
「平古場クン、試合を」
「休憩。」
「セットすら中途半端な状況で休憩する人がどこに居るんですか。」
「わん。」
(俺。)
「……謝るなら今のうちですよ。」
悔やまれるのは、平古場クンが勝っているということ。俺が勝っているのならばなんとでも言えるが、負けている状態だと、何を言っても負け惜しみにしか聞こえない。今日の平古場クンはすこぶる調子が良いらしく、ハブを打っているにも関わらず大ハブのようになる。部長として嬉しく思う反面、口を悪くして言えばムカつく。
因みに言えば、この状況で平古場クンの俺に対する機嫌は、非常に悪い。
「ぬーやが、いきがのひがみやみっともねーらんどー。」
(何だよ、男のひがみはみっともないぜ。)
「…………ゴーヤー。」
「っ、名無しさん……。」
「彼女に助けを求めるのはやめなさいよ。名無しさんは仕事に戻って。」
何をもってしても、ゴーヤーは苦手な平古場クンに滅びの呪文を唱え、俺は名無しさんに指示を出した。すると、不意に平古場クンの手が伸びて、名無しさんの動きを止める。腕を掴まれているだけだが、テニス部レギュラーの力は彼女の全動きを止められるほど。「凛……?」と首を傾げる名無しさんには返事をせずに、平古場クンは俯いた状態でこちらに歩み寄ってきた。
「名無しさんに命令さんけー。」(名無しさんに命令するな。)そう言いながら、俺の胸倉を掴んでもともと良くはない目つきで睨む。
「わんぬむんかいてぃー出してみれー、……たっくるす。」
(俺のモノに手出してみろ、……ぶっ殺す。)
…………子供か!
(名無しさんを尊敬しますよ。)
(ぬーんち?(なんで?))
(いや、キミの前では大人でしたね。)
(木手くん?何の話?)
(何でもないです。)
(20120830)