比嘉ぶっく

□理解不能
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知念くんは、何故か他のクラスメートよりも遠い存在のように感じる。これといって理由があるわけじゃないけれど、話しかけにくいというか、違う世界の人間というか。テニス部自体が話しかけにくい存在ではあるけれど、平古場くんや甲斐くんは至って普通だと思う。知念くんだけが、何か違う。

知念くんと話すきっかけになったのは、委員会が同じになった時のこと。委員同士の意思疎通を図ろうと思って、思い切って話しかけてみた。



「あちさんやー。」
   (暑いね。)

「ん。」



3秒と持たなかった。暑いね、というあたしの振りも悪かったかもしれないけど、返答と主にうちわを渡されちゃったから、もうこのネタは使えない。しかも、知念くんがうちわを持ってたから咄嗟に思い付いた会話だったけれど、よく見たら知念くんはそんなに暑そうには見えないし。流石、テニス部。

次に話す機会があったのは、席が隣になった時。委員会のことで顔は覚えられてるはずだから、今度こそ話せる。と思ったあたしが間違いで。



「見て、知念くん。あの雲、魚みたいさぁ。」

「じゅんにさぁ。……あ、あれ、フラスコに見えるさぁ。」
   (本当だ。)

「まー?」
   (どこ?)

「うり、あそこ。」



予想以上に知念くんが食いついてしまって、会話というか、ただの空観察になってしまった。大きな進歩だとは思うけれど、イマイチ知念くんを掴めていないような気がするのは気のせいだろうか。どんな話をすれば知念くんが食いつくのかがよくわからない。とりあえず、空の話は丸っと。
それから隣の席で話した結果を総まとめしてみると……テニスと理科が好き。以上。

そんなある日、突然「だぁ、ぃやー。」(おい、お前。)とか言って、平古場くんに廊下で呼び止められた。そこまでされるほど仲が良いわけじゃないはずなんだけど、とりあえず振り向く。



「くり、知念んかい渡しちふさん。」
   (これ、知念に渡してほしい。)

「ん、封筒……?」

「うむっさんむぬんだりーんどー。」
   (おもしろいもん見れるぜ。)



そう言ってけらけら笑いながら、平古場くんは教室に戻っていってしまった。一体何なんだろう。しかも、知念くんはすぐそこに居るんだから、知念くんに直接渡せばいいものを。あたしを通して渡すこと自体に何か意味があるんだろうか。
中身が気になりながらも、人の物を勝手に見るのはまずいと思って、そわそわしながら知念くんに渡した。



「くり、平古場くんから知念くんかい。」

「ん?ぬーやが……ひっ!」

「ちゃーさびたが?」
   (どうしたの?)

「り、凛……!」



封筒の中身を見た途端に、小さな悲鳴を上げた知念くんは、怒りなのか恐怖なのか震えだす。そんな知念くんの手からソレを取り上げて見てみれば、そこには可愛い犬の写真が。
思わず「わー!でーじちゅらかーぎーやっし!」(すごい可愛い!)と口に出すあたしに、知念くんはすごい形相で「まーが!?」(どこが!?)と。つまり、知念くんの様子を見る限り、知念くんは犬が嫌い……というよりは苦手らしい。こんなに可愛いのに。



「うり、ぃやーんかいやる。」
   (それ、お前にあげる。)

「え?にふぇーでーびる!」

「ふ、」

「ぬー!?あたし、いふーなーくとぅしちゃんばぁ!?」
   (何!?あたし変なことした!?)



突然笑われたから、咄嗟に聞き返せば、知念くんは首を横に振る。
けれど。



「ぃやーぬ方がよっぽどちゅらかーぎーあんに。」
   (お前の方がよっぽど可愛いだろ。)



理解不能。
やっぱり知念くんはわからない。

(今口説いた!?)
(本当のこと言っただけさぁ。)
(っ!?)



(20120829)

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