わんの誕生日を知ってるのは、家族以外でただ名無しさんだけ。雛祭りなんていう女のこの日に生まれたせいか、皆みたいに男らしい名前じゃなく、わんが親からもらったのは可愛らしい名前、凛。
そんな名前になった原因である誕生日も、この名前も嫌いだ。
3月3日の放課後、わんを祝うためにケーキを作ってわんの家に遊びに来ていた名無しさんに、そんな酷いことを言って家を飛び出した。本当は嬉しかった、誰にも祝ってもらえないのは少し寂しかったから。だけど今日はイライラしてて、本当に最低で、醜い。
「凛っ!」
ふと気付くとわんの目の前にある笑顔に、思わずビクリと肩を揺らした。昔からそう、名無しさんはどんなにわんが最低でも醜くても、わんに対してはいつも笑顔であり続ける。そのせいだろうか、名無しさんが“凛”と呼ぶ声がとても愛しくて、嫌だったはずの名前にも愛着がわくのは。
好き、大好き、愛してる。
たぶんそれは、この名前も名無しさんを構成している一部なんだと知っているから。
110304.闇風光凛