比嘉ぶっく

□明日もまた
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酷い。酷過ぎる。
彼が部活であるテニスに相当力を入れているのは、私だって理解しているつもり。だけど、たまにくらい彼女の相手してくれたって良いんじゃない?



「永四郎、明日遊びたい!」

「何言ってるの、明日も部活でしょ。」

「わ、わかってるけど…」



いつだって部活部活部活…って、彼女の誘いを断るくらいに部活が大事?古いドラマじゃないけど、私とテニスどっちが大事なわけ?なんて、聞いたりはしないけど。テニスが好き、何よりも。それがわかった上で付き合ってるんだから。



「たまには永四郎とイチャイチャしたいなー。」

「………」

「うんとかすんとか、何か言ってよ。」



何それ?だんまり決め込んじゃって、永四郎は私とイチャイチャしたいとか思わないわけ?部活帰りの今だって、暗くて危ないから手を繋ぐとかそれくらいの優しさもないなんて。



「永四郎のばか!」



私が立ち止まると、永四郎も立ち止まって振り返った。暗くても、永四郎が怪訝な顔をしていることくらいは察しがつく。



「そんなんだったら私、凛ちゃんとか裕次郎とかもっと優しい人を好きになれば良かった…!」

「名無しさん、」

「もういいもん!」



記念日?イベント?誕生日?そんなの無視で永四郎は部活。他の皆はパーティーしようとか言ってくれるのに、彼氏の永四郎が言ってくれないんじゃ私には意味ないのに。
そのまま永四郎に目も向けずに通り過ぎようとした。が、永四郎に腕を掴まれて、私は強制的に立ち止まらされた。



「さっきから聞いてれば、何を勝手に。」

「だって永四郎が、」

「俺が、ですか。言っておくけど、俺だって名無しさんとイチャイチャしたいとは思ってますよ。」

「じゃあ何で?」

「それは、」



一つ間を置いた時に見えた永四郎の表情は、何故か微笑んでいて。私に顔を見せないように、永四郎は私の手を握って歩きだす。突然過ぎてドキドキするのは気のせいじゃない。



「俺だって、恥ずかしいんですよ…!」

「………え?」

「次また立ち止まったら置いて帰りますよ。」

「あ、ごめんごめん!」



永四郎が恥ずかしい?照れてるってこと、だよね?なんて上手く回転しない頭で考えて出て来た答えは、やっぱり永四郎で良かったってことで。
握られている手に少しだけ力を入れれば、永四郎もまた少しだけ力を入れてきた。それが妙に嬉しくて、思わず腕に抱き着く。



「離れなさいよ、歩き難いでしょ…!」

「もー照れちゃって!」

「キミって人は…調子に乗ってるとゴーヤーですよ?」

「うげ。」



咄嗟に腕から離れて普通に手を繋げば、ククッと永四郎は含み笑いを仕出すから何故か悔しい。



「甲斐クンや平古場クンにすれば良かった、なんてよく言えたもんですよ。」

「つい勢いで…?」

「名無しさんが俺をどれくらい好いてるかわかってますから。」

「…意地悪だよね、永四郎って。」

「他の人にすれば良かったなんて言う名無しさんも、十分意地悪ですけどね。」



俺だって傷付くに決まってるでしょ、なんて言う永四郎にちょっぴりドキドキして。わざとゆっくり歩いてくれてる永四郎を追い越して顔を覗き込めば、ほんのり顔が赤くなっていた。



「何してるの。」

「顔赤いよ?」

「気のせいです。」

「えーそう?」



笑ってそういえばすぐに顔を反らされて、追い掛けるように顔を覗けば更に反らされるの繰り返し。結局ぐるぐる回った私達は、しばらくしてからどちらともなく止まった。



「ばかですか。」

「同じことしてた永四郎に言われたくないよ!」

「名無しさんが回るからでしょ。」



クイッと眼鏡を上げた永四郎は、そう言いながらまた歩き出す。まるでさっきまでの事はなかったかのように、それでも手は繋いでくれるから嬉しくて。



「ねぇ、今日泊まって良い?」

「少しは話の脈絡考えなさいよ。」

「良いでしょ?」

「何で急に言い出すんですか。」

「今閃いたから!」



そう言って笑って見せれば、永四郎からは呆れた溜息、それから呆れた笑いが返ってきた。



「仕方ないですね」

「やった!」

「明日も遊べないお詫びに、ですから。」

「ありがとー!」



思わず抱き着いたら、その勢いでキスされて。そんでもって勝ち誇ったような顔をして、永四郎はやっぱり意地悪だ。だけどそこもやっぱり好きみたい、私。


明日もまた


(永四郎の家に住んじゃおっかなー)
(やめなさいよ、迷惑ですから)
(きっぱり言うね…)
(きっぱり言わないと諦めないでしょ、名無しさんは)



20091226.闇†風

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