比嘉ぶっく

□心悸亢進
1ページ/1ページ




「あ、」

「…あ、名無しさん」

「今日は非番なの?」

「ちゅーや夜勤さぁ。」
   (今日は夜勤なんだ)

「ふーん」



窓を開ければ部屋に心地良い風が入って来て、思わず小さく伸び。と同時に隣の家の窓が目に入り、部屋に居る彼が見えた。
凛という女の子の名前をした彼は、私より年上の立派な島のドクターってやつで。夜勤だなんて言ってもたった3人しか居ない島のドクターだから、急ぎの用があればすぐに飛び出して行く。要は休憩時間みたいなもんだと私は思ってる。



「大変だね、『平古場ドクター』」

「別に。しまんちゅやでーじ元気やくとぅ、暇なくとぅぬ方が多いやぁ。」
   (別に。島の人は凄く元気だから、暇なことの方が多いな。)

「まぁ島民少ないしね。」

「だるなー」
   (まぁな)



言って笑ってみせれば、凛も微笑み返す。勿論、悪い意味ではなく良い意味で。島民が少ないからこそ、私達はこうやって仲良くなれたわけだし。都会に住んでいた頃は、こんなに医者と親密になんてならなかった。



「名無しさん、くまちゅーばぁ?」
   (名無しさん、ここ来るか?)

「え?」



ふと、凛はそう言って自分の隣を指差す。が、突然言われても上手い反応なんて出来なくて、我ながら素晴らしい阿呆面をした気がする。それでも凛の反応は至って真面目で、どう考えても冗談とは思えない。
確かに私達は恋人だし、凛の家だって何回も行ったことがある。それでもこんなに突然言うなんて、反則にも程ってもんがあるでしょ。なんてことを思いながらも、ドキドキと煩い心臓を無視してコクリと頷いた。



「あんしぇー…うり、」
   (じゃあ…ほら、)

「え?窓から行くの?」

「なんくるないさー。」
   (大丈夫だって。)

「う…」

「わんを信じれー!」



いつの間にか違う理由でドキドキしてる私に、凛は手を伸ばしてくる。そんなに距離が遠いわけじゃなくて寧ろ余裕なくらいだし、そんなに高いわけでもない。だけど勇気ってもんが欠けてる私には、結構大変で。



「手、離さないでよ…!」

「たーが離すか、ふらー」
   (誰が離すか、バカ)

「だ、だって…!」

「ったく…」



刹那、凛の細くて長くて力強い腕が私を抱きしめて、気付けば私は馴染み深い凛の部屋に居た。凛に抱かれてる私が状況を理解するのに時間はかからなくて、凛の胸に顔を埋めて「バカ」とだけ呟く。
凛が大人だってことはわかってたつもりだけど、凛という大人がこんなにズルいということは全くわかってなかった。まだドキドキが治まらなくて、苦しい。



「ちゃーさびたが?」
   (どうした?)

「何でもない」

「わんがしちゅん過ぎるばぁ?」
   (わんが好き過ぎるのか?)

「もう少し恥じらいを持ってよ」

「ならん」
   (無理)



けらけらと笑って、それからキスなんかしちゃって、更に意地悪く笑う。私がドキドキして顔を真っ赤にするのをわかってるはずなのに、わざとそうやって私を苦しめるんだから。



「ドキドキする…」

「平古場凛病あんに?」
   (平古場凛病じゃね?)

「……どうやったら治るの?」

「わんが居る限り治らん」



笑顔で「残念残念!」なんて言われたら、病気が進行しちゃうに決まってるのに。大体、医者なのに病気を治さないどころか、私を病気にしちゃうなんて酷い。それなのに、なって良かったなんて思えちゃうから厄介で。







2010よろ企画/20100317.闇†風

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ